-roop-
まだ夕方なのに、辺りが少し暗くなって来た。

空がまたどんよりと曇り出す。

濃い灰色に染まった雲は、見るからにたくさんの雨を抱えていそうだった。



「たぶん……明日も曇りなんでしょう…?」


その雲の向こうにいる千夏さんに問い掛ける。


きっと明日も…約束の日も…私が千夏さんでいられる最後の日も…星見ヶ浜は曇りだね…。


そうでしょう…千夏さん…。






ポッ…

ポツポツポツ…

サアァァァァーー




霧のような雨が、灰色の空から降ってきた。

小さな小さな霧のような雨…


あの夜の…初めて誠さんの温もりを知った日の雨…

昨日の…穏やかで幸せだった海…

そしてまた…






「……最近……俺たち濡れてばっかだなぁ…」



「え…」


後ろから聞こえた声に、ゆっくりと振り返る。




「……っ……誠さっ…!」



胸の奥がドクンと響く……。


「…でも…明日の……俺達の結婚式は……晴れるんだろ?」



そう言って穏やかに浮かべられる笑み…。




「ごめんな…?千夏……」




「誠さん……誠さんっ…!!」




もう何も…考えられなかった。


がむしゃらに抱き着いた身体をただ受け入れてくれる。



それだけで…良かった…。
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