-roop-
…カチッ

デッキの中にビデオテープを差し込んだ。

『6月2日 プロポーズ』そう書かれたビデオテープを…







『ほら千夏!今の気持ちは?』


『ちょっ…何録ってんのー!?』


『記念だよ記念!!ほら早く!』


ビデオの中に映し出されたのは、文句を言いながらも幸せそうに笑う…生きてたときの千夏さんの姿だった。

その後ろに映し出された見慣れたはずのリビングには、紫陽花のカレンダーが飾られている。

2日までしか埋められていないカレンダーに…時間の流れを感じた。

本当にこれはこの部屋で…ほんの2ヶ月前に起こった光景なんだ…。




『千夏さん!誠くんからの感動のプロポーズの感想をどうぞ!』


『え~??』


まるで少女のように頬を赤く染めて、千夏さんは耳にかかる髪をそっと撫でている。


あぁ…可愛いなぁ…幸せなんだろうなぁ……。


千夏さんは頬を緩ませながら、小さく咳をしてカメラを見つめる。


『えーっと……すごく……嬉しかった…ですっ』


『…ええー!!そんだけかよ千夏ー!』


『だっ…だって…!じゃあ誠が言ってよー!』




--誠--



私と同じ声でそう言った声に不思議な感じがした…。


思えば…



『誠…さん…か…それもいいなー!!』


貴方を『誠』と、そう呼んだことは…


ねぇ…


一度もなかったね…。
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