君の声が聞こえる
「良枝ちゃん、来てくれたの?雅巳は今、図書館のほうに行っているわ。あの子は本の虫だから。もうすぐ帰ってくると思うから家に上がって待っていてちょうだい」

 私の背中を押すように、雅巳の母親は私を部屋に上げた。

 ごく普通の2DKという造りの部屋だ。

 私はダイニングテーブルの椅子に勧められるままに座った。

 こざっぱりとした何もない部屋。

 雅巳も雅巳の母親もゴテゴテと部屋を飾り付けるのは好まないのだろう。

部屋の壁にはカレンダーがあるくらいで、ポスターも写真も飾られてはいない。

 雅巳のお母さんは私と自分の分の麦茶を入れたコップを運んできて、私に向かい合うように座った。

「雅巳、図書館に行ったって事は体調がいいんですね」

「ええ、そうなの」

 そして、ニッコリと私に笑顔を向けた。目の前にいる雅巳の母親は、とても綺麗な人だった。年は四十前後に見えるが、実は今年で四十六になるのだそうだ。驚くほど若い。雅巳の美貌も母親譲りなのだろうが、笑顔は少し違って見える。

 雅巳の笑顔は母親よりも塩谷さんに似ているように思えた。


「おばさん、今日は仕事お休みなの?」
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