君の声が聞こえる
「もう何ともないから、呼ぶ必要はないよ」

 立ち上がった雅巳は、ほんの少し私よりも背が高かった。それなのに私よりずっと細い体つきをしている。

別に私が太っているというわけではない。むしろ標準より細い部類に入るだろう。それほどに雅巳は細かった。

 冷たい印象を持たれがちな整った顔立ちは、同じ年には見えないほど雅巳を大人っぽく見せていた。

「大した事じゃないよ。いつもの事だから騒ぎにしないで」

 澄んだ大きな目に、すがるように見つめられて私はドキドキしてしまった。

綺麗な子だということは知っていたけれど、こんなに近くで見たのは初めてだ。こんなに強い眼差しを向けられて逆らえる人間がいたらお目にかかりたい。

 私が頷くと、雅巳は安心したように柔らかい微笑みを私に向けた。

「ありがとう」

 笑顔の雅巳はまるで天使のようだった。

「でも、どうして?どうして先生を呼んじゃいけないの?」

 あんなに苦しそうだったのに、我慢していた雅巳。その気持ちが私には分からなかった。

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