君の声が聞こえる
「私、学校が大好きなの。一回でも発作が起きると検査とかしなくちゃいけなくって三日は学校を休む事になるの。そんな事で学校に来れなくなるのが嫌なの。それに今の発作は軽かったから」

 静かな声で私にも分かりやすく話す雅巳の表情は穏やかだった。

「軽かったの?」

「うん」

 あんなに苦しそうだったのに、事も無げに軽い発作だったと言う雅巳に、胸の痛みを覚えた。もし、あれで軽いと言うなら、雅巳はもっと苦しい発作に襲われる事が、しばしばあったという事だろう。

 今さらながら、雅巳の背負っているものの大きさに気付かされたような気がする。

「そんな顔しないで」

 雅巳に頭を撫でられて我に返る。どうやら暗い顔をして、雅巳を心配にさせたらしい。

「とにかく、ありがとね」

 雅巳が私から離れて給食コンテナーの真ん中の棚に残っている、二十センチ四方の白い箱に手を伸ばした。そこには黒マジックで雅巳のクラス名、五年二組と書かれている。

 雅巳は私と同じで、ジャムを取りに来たんだ。

 奇妙な偶然。そして、何となく感じる親近感。

 私は背を向けて、自分のクラスに戻ろうとする雅巳の背中に大きな声で話し掛けていた。
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