君を愛す ただ君を……
『陽菜、お願いがあるんだ。僕の部屋のベッドの下。そこに小さな箱がある。それを彩香に…軽部彩香に渡して』

あたしはぱっと瞼を持ち上げると、身体を起こした

ダブルベッドで寝ていたあたしは、まわりをキョロキョロと見渡してから、がっくりと肩を落とした

大ちゃんの声がした

姿を見えなかったけど、大ちゃんの声だったよ

聞き間違えるはずがない

あれは、大ちゃんの声だった

凄く近くで…あたしの耳元で囁いてた

あたしは右耳を指でいじると、もう一度大ちゃんの言葉を思いだした

「陽菜?」

布団の中で、愁一郎の眠たそうな声が聞こえた

「大ちゃんの声が聞こえたの」

「え?」

愁一郎が、有り得ないでしょ?と言わんばかりの声を出した

「あたし、ちょっと出かけてくる」

「は? ちょ…」

愁一郎が手を伸ばして携帯で時間を確認した

あたしはベッドから飛び出すと、クローゼットの室内灯をつけて、服を取りだした

「ちょっと待ってよ…陽菜。今、何時だと思ってるの? 夜中の2時だよ」

「大ちゃんの声が聞こえたの。だから…確かめたくて」

「確かめる? 何を? 夢だよ。岡崎が死んで、陽菜が脳に記憶している岡崎を映像化しただけだって」

「そんなことないっ。だって、大ちゃんの声がすぐ近くで聞こえたもん」

愁一郎が呆れた顔で、身体を起こすと、布団の上にかけてあるガウンを肩にかけた

「本当に出かける気?」

「うん。だって大ちゃんがお願いしてたから」

「何それ…」

「だから、それを大ちゃんのアパートで確認したいの」

「…わかったよ。僕が車を出すから」

愁一郎が眠そうに大きな欠伸をすると、名残惜しそうに布団から身体を出した
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