君を愛す ただ君を……
あたしは家に帰ると、出しっぱなしの掃除機を横目にソファに座った

何もやる気が起きない

『俺……あんたに騙されたんだってな』

愁一郎の冷たい言葉が、何度も頭の中でリピートされる

騙してないよ、愁一郎

お互い、好きって気持ちでここまできたんじゃない

高校生のときに知り合って、一度は離れ離れになったけど…お互いがお互いを想い合ってて、好きな気持ちを忘れなかったから、結婚しようってなったのに

愁一郎を騙すなんて…あたしはしないよ

鞄の中で、ピッチが鳴る

あたしは鞄の中に手をいれると、ピッチを掴んだ

『お袋から聞いた。俺の家にあんたがいて、出ていくつもりがないって。俺、あんたが俺の家にいるなら、お袋の家に世話になるから』

あたしはピッチを床に叩きつけた

こんなの愁一郎じゃないっ

あたしの知ってる愁一郎とは全然違う

あたしのことを『あんた』なんて、言わないもの

愁一郎…お願い

あたしを思い出してよ

あたしは床に落ちたピッチを手に取ると、愁一郎にメールを返信した

『愁一郎が出て行けというなら、あたしはいつでも出ていきます。お世話になりました』

あたしはソファを立つと、寝室に向かった

旅行用の鞄に適当に選んだ服を突っ込むと、愁一郎の家を飛び出した

あんな……愁一郎なんて嫌い

あたしの知ってる愁一郎じゃないもの

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