君を愛す ただ君を……
あたしが振り返ると、ママが心配そうな顔であたしを見ていた

「大樹君から電話があって、一人で先に帰ったって言うから」

ママがサンダル姿で、外に出てきた

「あ…あなたは?」

ママの視線が、越智君に行った

越智君はぺこっと頭を下げた

「初めまして。越智 愁一郎です」

「越智?」

ママが何か思い当たるのか…首を傾げた

「越智 愁……」

ママがまた名前を口ずさみながら、眉に皺を寄せた

「聞き覚えがあるのも、当然です。心臓外科の越智 愁平の息子です」

「あ! 院長先生の?」

「はい」

越智君がまたぺこっと頭を下げた

「陽菜とは…どういった関係…」

「ママっ」

あたしはママのぶしつけな質問に、ママの腕を掴んだ

「だって、気になるじゃない」

ママが小声であたしに説明をする

あたしたちのやり取りを見ていた越智君がくすっと笑った

「俺の片想い中です。一度、告白したんですけど…振られてしまって」

越智君が恥ずかしそうに、苦笑しながら口を開いた

「越智君まで」

「事実だろ?」

「そうだけど…もう1年以上も前の話だし…」

「じゃあ。俺、帰るから」

越智君が、ママにお辞儀をしてから歩き出した

あたしが病院に行く道筋を、越智君が帰路として歩み出す

あの病院の隣に、越智君の家があるのだろう

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