君を愛す ただ君を……
「そ…そんなぁ。あたし、越智君と付き合ってないよ」

あたしは、しぃちゃんの背中に向かって言葉を発した

「見た人がいるっていうのに、まだ知らないフリをするなんて、往生際の悪い女ねえ」

しいちゃんの机の前にいる女子が、腕を組むと呆れたように言った

往生際が悪いって言われても、付き合ってないもの

あたしは下を向くと、ぎゅっと拳を握りしめた

病院には言ってたけど、生理が来ないっていう理由じゃない

「女の友情って薄っぺらいって言うけど、本当なんだね」

聞き覚えのある低い声にあたしは、振り返った

白と黒のジャージ姿の大ちゃんが、教室の入り口に立って、こっちを見ていた

「岡崎先生?」

他の女子たちが声を合わせて口にする

しぃちゃんが、席を立つと、大ちゃんのほうにすたすたと歩いて行った

「涼宮さんには、もともと私にたいして友情なんてなかったんじゃないですか?」

大ちゃんの前で足を止めたしぃちゃんが、言葉にした

え? そんなぁ…

「あたしは……」

「最初から友情が芽生えてなかったのは、君のほうでしょ?」

大ちゃんが、冷たい視線でしぃちゃんを見下ろした

「え?」

「涼宮の話もロクに聞かず、噂に踊らされて。君は一体、涼宮のどこを見てきたの?」

「従兄だからって、あの子の味方するんですか?」

しぃちゃんがあたしを指でさした

「従兄だからって理由じゃない。陽菜の人となりを知っているからだ。それに、陽菜と越智が出てきた病院に、産婦人科はないよ。事実確認もしないうちから、他人を傷つけるなんて、失礼だと思わない?」

大ちゃんが、しぃちゃんを睨むと廊下に出て行った

『え? 産婦人科ないの?』
『じゃあ、何しに言ってたの?』

女子たちの囁きが聞こえてくる

あたしは鞄を持ったまま、唇を噛みしめて教室を飛び出した

< 64 / 507 >

この作品をシェア

pagetop