DARK†WILDERNESS<嘆きの亡霊>
(―10―)




路地の入り口、壁にもたれミカエルは夜空を見上げる。

連れを待つからと言ってアレックスを先に帰して独りその場に残った。

診療所にいる人々は皆善良で、その場の空気はよくも悪くも昔を思い出させて……支える存在なしにその場に戻るのは気が引けた。

アンナの強さは、あの日自分の盾になった兄を思い出させたし、あの部屋の暖かな灯りは、母がいた懐かしい家の記憶を呼び起こす。

運命が変わった日。

一人だけ生き残ってしまったあの日に、盾になった兄と最期にかわした約束。それだけを支えに、進む道を決めた。

こうして今居る自分の存在。その在り方を後悔してはいない。約束を守るために、それは最も確実で、自身の願いにも沿うものだった。

けれど、どんなに望んでも……あの日が帰ってくるわけではないことも分かっている。

今の自分に出来ることは、ただただ約束を守ること。それだけが手向けで、絶対のもの。

昔に戻ることは出来ないのだ。

だからそれを呼び起こすものは少しだけ怖くもある――


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