DARK†WILDERNESS<嘆きの亡霊>
路地に入ってしまっては見ることのかなわない、来た時と変わらぬ煌々と光り輝く月を見上げる白い頬に、不意に揺らいだ空気に舞い上げられた金糸の髪が撫でた。
「どういう風の吹き回しだ? 敵兵に情けはかけないんじゃなかったのか?」
闇に溶け込む低く静かな声が頭上から降ってくる。
「あら、らしくなかったのは貴方もじゃないの?」
靴音も立てず、ひらりと真横に降り立った待ち人を見上げ、ミカエルはクスリと小さく微笑んだ。
「食事は済んだ? 慣れないことするから疲れるのよ」
「ふん……確かに暇つぶしにしては少々疲れることをしたがな……」
戻って早々だというのに、早速胸元から煙草を取り出し火をつけ、ジュードはぼそりと呟く。
『私のをあげられるならいいんだけどね』
ミカエルはそんなジュードから目を逸らし、声には出さず胸のうちでそう唱えて、白い自らの手の平を見つめる。
白く、染みひとつない肌。人と変わらぬように見えるその肌の下に体液は流れている。
だが、それは自然なものではない。
化け物のような体を動かすために、人の手を加えられて作られた得体の知れぬ液体。
だから、その台詞をあえてミカエルは口には出さない。たとえ口にしたところでジュードもそれを受け入れはしないだろう。