君の左手
『…お兄ちゃんが……、1人。』
頭の中を駆け巡る想いとは裏腹に、すんなり出た言葉だった。
お兄ちゃんをお兄ちゃんと呼ぶ以外に、呼び方なんてあるのかな…。
アユミにとって変わらない物ってなんだろう…―
「兄ちゃんかぁ。俺も居るけどさ結構うっとおしいよ。
でも何だろう…兄ちゃんって、絶対守ってくれる感がある気がする。俺も弟の事守ってやんなきゃって思うし……って、何?
…帰んの?」
服についた埃を払って勢いよく立ち上がった。
アユミには向かい合わなきゃいけない現実がある。
――例えそれが、傷つく事になっても。
いつもアユミを守ってくれたお兄ちゃんの為にも。