Devil†Story
ークロムsideー


ーーゾクッ


「!?」


屋上から発せられた殺気に女は上を向いた。


「ようやく本気になったかアイツ…。ったく呆けやがって」


俺は呆れながら溜め息をついた。大方…足についたケブラー糸にも、上にいたのが幽霊じゃない事にも気付いて怒ってるんだろうがな。


「嘘…あの子…あんなにほんわかしてたのに、こんな殺気を出すの…?」


「アイツがここに戻ってくる前にテメェとの戦いは終わりにする」



唖然としていた女だが俺の方を向き直しキッとその顔を歪めた。



「舐められたものね。ところで貴方…魔物と契約してるのかしら?気配が人間ではないわよね。目が赤いって事は…悪魔とかしら。契約主はあの時とんでもない殺気を出してた彼ってところね。お陰であの帽子の子をつけてたのに台無しになってしまったわ」


あの時の…というのは昨日のロスとの喧嘩で垂れ流されたロスの殺気の事を言ってるのだろう。なるほどな。やっぱ稀琉の後をつけてたのはこいつだったか。


「台無しにされたのはこっちだっての。逃げやがって」


「普通の魔物ならその場に居られないほどの殺気だったからね。今日はその彼は来てないのね?いくらあんなに強い悪魔と契約してるからと言って人間の坊やに私が倒せると思っているのかしら?」


「ハッ…"あの程度"の殺気で逃げ出すような雑魚に負けるかよ」


「言ってくれるわね…その自信がいつまで持つかしら!!」


いうや否や女は蜘蛛の足を俺に向かって突き刺してきた。それを横にかわした後、次の足もかわす。数が多いのもだが、絶対に体に接触させたくねえ。万が一体に触れたら自害しそうだ。狙いが定まらないようにジグザグに走る。


「チッ…!すばしっこい坊やね!!」


指を動かしながら女は舌打ちをした。なかなか当たらない事にイライラし始めた女の攻撃が大降りになる。1本の足が他の足よりも深く突き刺さったのを見逃さず間髪入れずに足を剣で切断した。ドシン!と音がして足が地面に落ちる。


ーーブシュウゥゥ!


「…!」


切断した足から出てきた緑色の体液に思わず俺は口を押さえる。マジ無理なんだが…。気持ち悪ぃ…!!


「きゃっ…って!失礼な坊やね!人の足切っといてなんて顔してるの!?」


吐き気を催した俺の顔を見てババアは大声をあげた。


「気持ち悪ぃんだから喋らせんな…!」


足と体液を避けながら俺は距離をとった。クソッ…!この女限定でアイツの情けを素直に受けてぇところだ…!なんで肝心な時にいねぇんだよ…!…駄目だ気持ち悪い…。



ーーカサカサ



「…!!!!!」



切断した足がカサカサと動いているのを見て俺は血の気が引いた。これは早く終わらせねぇとマジで吐くかもしれねぇな。ていうか俺の精神がもたん…!!


寒気、鳥肌と戦いながら、一気に勝負を決める為に俺は覚悟決めて女の足を次々切り落としていった。その度に酷い吐き気に襲われたがそれよりもこの虫の部分を無くす事に専念する。


「なんて坊やなの…!このっ…!!」


残り2本になった足を左右に広げたかと思ったら挟み込んできた。俺はそれを跳んで避け、2本同時に切り落とし、剣を縦に振って空中で前転して足と体液に触れないように避けた。


「ッ…!!」


「ハー…ハァ…」


普段の戦闘では息が上がる事はないが体液や足に当たらないように避けていたので流石に息が上がってしまった。


「やっと…終わった…ウッ…」


ギチギチとひしめく音と体液が滴る音に口元を押さえる。ギリギリ吐かずに済んだが限界に近い。


「さっきから本当に失礼ね!私の足を全部切り落としておいて…!」


背中から出ていた足を体の中に引っ込めた女は俺に文句を言ってくる。文句が言いてぇのは俺の方だっての。


「…そのキショい足を引っ込めた事は褒めてやる。さて。もう戦えねぇだろ?さっさとあの馬鹿の居場所をはい…ウッ…吐いてもらおうか」



吐くという言葉に誘発されて軽くえずきながら俺は剣を女の首に向ける。タラリと剣から緑色の体液が流れてたのを見て再度鳥肌が立った。
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