Devil†Story
「フフ…余裕に満ちた表情ね」


追い詰められてると言うのに女の方が余裕がある表情を浮かべていた。


「てめぇこそ。まだ勝てると思ってねぇだろうな」


その整った顔に剣先を突きつけると赤い血が流れた。…本体の血は赤いんだな。緑色ではなかった事に安堵しつつもそれを表情に出さなかった。


「ウフフ…さぁ、どうかし…ら!」


「!!」


女はしまった筈の切れた足を俺に向けて突き刺してきた。リーチは短くなっていたが、そのまま立っていれば俺の体を貫けなくとも体に接触するだろう。死んでもそれに触れたく無い俺は瞬時に地面を蹴って後ろに跳んだ。


「…フフ。女はねいくつも"罠"を仕掛けとくのよ」


跳んだ俺を見た女はニヤリと笑みをこぼし、指を引くような動きをした。恐らく糸を蜘蛛の巣のように張り巡らせて俺を捕まえる算段だったのだろう。


「…バーカ。ずっと見えてたっての」


「!?」


俺は両手で剣を持って後ろに向かって思い切り横に振り抜いた。段々と重みを感じていたのでそこに巣を作っていたのだろう。振り抜いた後に剣を片手に持ち直し、もう片方の手でポケットからジッポライターに火をつけてその空間に投げつける。蜘蛛の巣に引火した炎は糸がある部分にまるで導火線の様な軌跡を描いていた。


「なっ…!」


「…本当詰めが甘いな。戦ってる最中に指動かしてただろ。バレバレだっつうの。それにここに来た時…息苦しさを感じたからな。張り巡らせていたんじゃねぇかって踏んだんだよ。さっきまで吊るされてた女も消えてるしな。その女は外観を人間に似せた糸入れにしてたんだろ」


部屋に入る前…それよりも前から糸を使う事は予想していた事だった。初めに麗弥のカラスが捕まった際に“何かに絡まって動けなくなった“と聞いた時から。チラリと見ると思った通り部屋全体に糸を巡らせていたようだ。火事になると面倒なので地面に落ちたライターを素早く拾い、今度は剣に近付けて剣についていた糸を焼き払った。


「くっ…!!」


再び背中から足を出して反撃しようとした女の背後に回りその背中を切りつけた。背中を切りつけたので血液が緑じゃないか心配だったが赤だった。


「ッ…!」


「…次にまたあのキモい足出しやがったら背中ズタズタに切り裂いて、髪の毛をフックにかけて吊るすぞ」


再度背後から剣を首に突きつけた。


「今度こそ終いだ。さっさとあの馬鹿の居場所を教えて貰おうか」


「フフッ…まさか私が人間ごときにここまで追い詰められるなんてね…」


糸も見破ったというのに変わらない女の態度に少し疑問を持つ。


「答えねぇなら今度は本体の足をぶった斬るぞ」


「あらダメよ。この足は気に入ってるの」


「だったらさっさと答えーー」


そこまで話したところで急に目眩がしてきた。


「……!?」


視界が歪む程の目眩に女の首に突きつけてた剣を引く。


「フフッ。言ったでしょう?いくつも罠を仕掛けておくって」


立ち上がった女は舌舐めずりをしながら俺の前に立った。


「…ッ」


ガクッ


思わず剣を立てて膝をつく。頭がぼんやりして上手く立つ事が出来なかった。


「てめぇ…」


「ふふ…これには気付かなかった様ねぇ。…良い匂いだったでしょう?」


「!」


女は上着をヒラヒラさせて妖艶な笑みを浮かべた。甘ったるい変な匂いだと思ったら…麻痺させるやつだったか…。


「この香りは人間を麻痺させる…私達の能力の1つよ。貴方強そうだったから色々作戦を練ってたのよ。流石に動けないかしら?」


「チッ…。油断した…」


俺が女を睨み付けると更に表情を歪めて笑っていた。


「フフ…形勢逆転ね。さぁ、私の足を切り落とした分、どう痛めつけてやりましょうか?」


女が勝ち誇った様な顔をし目の前まで来た。そしてその指が俺の顎に触れる瞬間だった。


「…なんてな」


ーーズシャァ!!


「なっ!?」


俺は剣を抜いて左の腰あたりから右の肩に向かって下から剣を振り切った。
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