Devil†Story
「ッ…!」
女は俺から距離を取り、肩を押さえていた。
「…チッ。浅かったか…」
舌打ちをしながら俺は立ち上がる。浅いと言っても女の体からは結構の量の出血が確認出来た。
「な…んで…いくら契約したとはいえ…ここには匂いを充満させてたのに…!人間だったら動けるわけ…」
「ハッ。残念だったな。俺はそれなりに"深い"契約を交わしてるんでな。お前如きの毒なんか大したダメージにならねぇんだよ」
まだ頭が少しぼんやりするが、すぐに回復するだろう。死にかけの女にトドメを刺すには充分過ぎる程だ。
「ま…さか…?坊やの契約主って…」
女はハッとしたかの様に目を瞬かせた。どうやら、それなりの悪魔と契約したのに気付いた様だが、俺はあえて答えなかった。
「…無駄話をするつもりはねぇぞ。あの眼帯のバカを何処に連れて行った?何故、俺達を狙ってる?」
「………」
「さっさと答えろよ。俺は麗弥の様に女に…いや、誰に対してもだが優しくねぇんだよ」
「ッ…!!」
先程切った傷口に合わせる様に剣先を当て、徐々に下に下ろす。下に下ろせば下ろすほど出血は増して水溜まりを形成していく。
「上の怖がりが戻ってくる前に終わらせるって言ってんだろ。…まだ言わねぇなら地下に連れてって痛ぶるぞ」
殺意のこもった声で俺がそう言うと女は薄く笑って聞いた。
「坊や…本当に人間なの?確かに人間の気配とは少し違うとは思ってたけど…この残酷さ…人間には見えないわ。人間の皮を被ってる何かって感じ…。それに…暗く冷たい目ね。人間なら…多少は目に“光”が入ってるはずなのに…」
そう言う女を俺は冷ややかに見下ろす。その目は…彼女の言う通り暗く冷たい…血の様な目だった。
「…“光”?お前の様な虫じゃねぇんだ。そんな物、俺には必要ない」
(あぁ、やっぱりこの子の目は紅く血の様に深くて…“闇”その物を見ている様だわ…)
彼女は密かに思った。彼の目には何も写ってはない。
ただ…深い闇だけが見えるだけ。
「まだ無駄話がしたいんだな。なら………お望み通り地下に連れてって、ゆっくり"壊して"やるよ」
低い声が響いて女がクロムの顔を見ると驚愕した。彼は…笑っていた。口角を吊り上げて笑っている。まるで玩具を見付けた子どもの様な無邪気さと狂気が込もったその笑顔にゾクッと背中に寒い物を感じたのと同時に恐怖が襲う。女は認められなかった。魔物の自分が…人間に恐怖を感じたと言うその事実に。楽しそうに歪んだ表情で笑うクロムは女の髪の毛を掴もうとした。そのまま引き摺られて地下に連れて行かれるのは時間の問題であった。地下に連れて行かれればクロムが言うようにゆっくり時間をかけて拷問される事は想像に容易かった。
「まっ!待って!分かった言うわ…!」
女がたまらずそう叫ぶとクロムの動きはピタリと止まった。
「チッ。怖気つきやがって。魔物相手にどんな痛ぶりが効くのか試してやろうと思ったのに」
「本当に恐ろしい坊やだわ…」
つまらなそうにしているクロムの様子を見て女がボソリと呟く。
「余計な事を喋ってんじゃねぇよ」
女からの出血量は結構な量だ。いくら化物でも、もしかしたら死ぬかもしれない。その前にさっさと用件を聞かなければ今までの面倒が全部、無駄になる。せめて、あのバカの居場所だけでも聞き出さねぇと洒落にならねぇ。しかし、女は何も答えない。
「…なんだ?はったりか?やっぱ下で俺と遊びたくなったか?」
それならそれでいい。いずれにしろ……“殺す”と言う事には変わらないし、さっき考えてた方法を試すのも悪く無いからな。
「ちっ、違うわ」
「なんだ。だったらさっさとしろ」
「あの眼帯の坊やなら…この近くの林の中にある廃倉庫の中よ。私の術で見えなくしてるから…それを解除すればすぐ見つけられるわ」
「なるほどな……目的は?」
「目的は…よくは知らないけど、貴方達…特に坊やと契約主の子を誘き寄せる為とヤナ様が言ってたわ…」
やっぱりな。あの馬鹿を餌に俺達を誘き出す作戦だったって訳だ。…だが何の為に?俺とロスに用があるってどんなだ?恐らくこの女を叩いてもこれ以上は出てこないだろう。最後にさっきから名前が出ている"ヤナ"って奴の事でも聞くか。
「さっきから名前が出てるヤナって奴は吸血鬼か?」
「ヤナ様は純血の―…」
そこまで女が言った時だった。
ーーヒュン!
「!?」
風を切る音がして何処からか、ナイフが飛んで来て女の心臓の部分に刺さった。
「ーー!誰だ!?」
辺りを見渡すが何も確認出来なかった。動けるとはいえ、このクソ香水のせいで気配が分からないせいもあるだろう。
女は胸から血を流して「ヤナ…さ…」とボソリと呟いて死んだ。
「…口封じか」
俺は舌打ちをした。この場所は元から女が用意していた部屋だろう。この匂いを充満させる為にはそうする他がない。その時、そのヤナって奴もここに入って状況を見ていたのだろう。…こうなる事を予測して。
「…ヤナ様…か」
俺は女に突き刺さったナイフを引き抜いて見た。
ブシュッ…
そこから血が溢れ出すがそんなの気にしない。そのナイフはクナイの様な形状をしており、一見薄くて殺傷能力は低そうに見えるが少し指で触れただけで厚手の手袋が簡単な裂ける程、鋭い切れ味を誇っていた。
…とりあえず稀琉の様子を見に行くか。屋上で戦っているであろう稀琉の様子を見るために、窓から身を乗り出そうとしたが思い出した事があり、先程女の入れ物が吊るされていた窓付近に近付いた。
「……邪魔したな。見ての通り俺等は仕事で来たから、やるならここに遊び半分で来た奴をやってくれ。騒がしくして悪かった」
………ーー…
「……そうか。伝えとく」
………ーー……
俺はそれだけを言うと窓から身を翻した。
女は俺から距離を取り、肩を押さえていた。
「…チッ。浅かったか…」
舌打ちをしながら俺は立ち上がる。浅いと言っても女の体からは結構の量の出血が確認出来た。
「な…んで…いくら契約したとはいえ…ここには匂いを充満させてたのに…!人間だったら動けるわけ…」
「ハッ。残念だったな。俺はそれなりに"深い"契約を交わしてるんでな。お前如きの毒なんか大したダメージにならねぇんだよ」
まだ頭が少しぼんやりするが、すぐに回復するだろう。死にかけの女にトドメを刺すには充分過ぎる程だ。
「ま…さか…?坊やの契約主って…」
女はハッとしたかの様に目を瞬かせた。どうやら、それなりの悪魔と契約したのに気付いた様だが、俺はあえて答えなかった。
「…無駄話をするつもりはねぇぞ。あの眼帯のバカを何処に連れて行った?何故、俺達を狙ってる?」
「………」
「さっさと答えろよ。俺は麗弥の様に女に…いや、誰に対してもだが優しくねぇんだよ」
「ッ…!!」
先程切った傷口に合わせる様に剣先を当て、徐々に下に下ろす。下に下ろせば下ろすほど出血は増して水溜まりを形成していく。
「上の怖がりが戻ってくる前に終わらせるって言ってんだろ。…まだ言わねぇなら地下に連れてって痛ぶるぞ」
殺意のこもった声で俺がそう言うと女は薄く笑って聞いた。
「坊や…本当に人間なの?確かに人間の気配とは少し違うとは思ってたけど…この残酷さ…人間には見えないわ。人間の皮を被ってる何かって感じ…。それに…暗く冷たい目ね。人間なら…多少は目に“光”が入ってるはずなのに…」
そう言う女を俺は冷ややかに見下ろす。その目は…彼女の言う通り暗く冷たい…血の様な目だった。
「…“光”?お前の様な虫じゃねぇんだ。そんな物、俺には必要ない」
(あぁ、やっぱりこの子の目は紅く血の様に深くて…“闇”その物を見ている様だわ…)
彼女は密かに思った。彼の目には何も写ってはない。
ただ…深い闇だけが見えるだけ。
「まだ無駄話がしたいんだな。なら………お望み通り地下に連れてって、ゆっくり"壊して"やるよ」
低い声が響いて女がクロムの顔を見ると驚愕した。彼は…笑っていた。口角を吊り上げて笑っている。まるで玩具を見付けた子どもの様な無邪気さと狂気が込もったその笑顔にゾクッと背中に寒い物を感じたのと同時に恐怖が襲う。女は認められなかった。魔物の自分が…人間に恐怖を感じたと言うその事実に。楽しそうに歪んだ表情で笑うクロムは女の髪の毛を掴もうとした。そのまま引き摺られて地下に連れて行かれるのは時間の問題であった。地下に連れて行かれればクロムが言うようにゆっくり時間をかけて拷問される事は想像に容易かった。
「まっ!待って!分かった言うわ…!」
女がたまらずそう叫ぶとクロムの動きはピタリと止まった。
「チッ。怖気つきやがって。魔物相手にどんな痛ぶりが効くのか試してやろうと思ったのに」
「本当に恐ろしい坊やだわ…」
つまらなそうにしているクロムの様子を見て女がボソリと呟く。
「余計な事を喋ってんじゃねぇよ」
女からの出血量は結構な量だ。いくら化物でも、もしかしたら死ぬかもしれない。その前にさっさと用件を聞かなければ今までの面倒が全部、無駄になる。せめて、あのバカの居場所だけでも聞き出さねぇと洒落にならねぇ。しかし、女は何も答えない。
「…なんだ?はったりか?やっぱ下で俺と遊びたくなったか?」
それならそれでいい。いずれにしろ……“殺す”と言う事には変わらないし、さっき考えてた方法を試すのも悪く無いからな。
「ちっ、違うわ」
「なんだ。だったらさっさとしろ」
「あの眼帯の坊やなら…この近くの林の中にある廃倉庫の中よ。私の術で見えなくしてるから…それを解除すればすぐ見つけられるわ」
「なるほどな……目的は?」
「目的は…よくは知らないけど、貴方達…特に坊やと契約主の子を誘き寄せる為とヤナ様が言ってたわ…」
やっぱりな。あの馬鹿を餌に俺達を誘き出す作戦だったって訳だ。…だが何の為に?俺とロスに用があるってどんなだ?恐らくこの女を叩いてもこれ以上は出てこないだろう。最後にさっきから名前が出ている"ヤナ"って奴の事でも聞くか。
「さっきから名前が出てるヤナって奴は吸血鬼か?」
「ヤナ様は純血の―…」
そこまで女が言った時だった。
ーーヒュン!
「!?」
風を切る音がして何処からか、ナイフが飛んで来て女の心臓の部分に刺さった。
「ーー!誰だ!?」
辺りを見渡すが何も確認出来なかった。動けるとはいえ、このクソ香水のせいで気配が分からないせいもあるだろう。
女は胸から血を流して「ヤナ…さ…」とボソリと呟いて死んだ。
「…口封じか」
俺は舌打ちをした。この場所は元から女が用意していた部屋だろう。この匂いを充満させる為にはそうする他がない。その時、そのヤナって奴もここに入って状況を見ていたのだろう。…こうなる事を予測して。
「…ヤナ様…か」
俺は女に突き刺さったナイフを引き抜いて見た。
ブシュッ…
そこから血が溢れ出すがそんなの気にしない。そのナイフはクナイの様な形状をしており、一見薄くて殺傷能力は低そうに見えるが少し指で触れただけで厚手の手袋が簡単な裂ける程、鋭い切れ味を誇っていた。
…とりあえず稀琉の様子を見に行くか。屋上で戦っているであろう稀琉の様子を見るために、窓から身を乗り出そうとしたが思い出した事があり、先程女の入れ物が吊るされていた窓付近に近付いた。
「……邪魔したな。見ての通り俺等は仕事で来たから、やるならここに遊び半分で来た奴をやってくれ。騒がしくして悪かった」
………ーー…
「……そうか。伝えとく」
………ーー……
俺はそれだけを言うと窓から身を翻した。