Devil†Story
ーー魔界 魔王城 謁見の間ーー
「全くお前は…儂が来いと言うたらすぐに飛んで来んかい!馬鹿者が」
クロムとヤナが戦闘を繰り広げる少し前。王座で座っている老人が呆れたように誰かに説教をしていた。黒い角、紅黒い目、細い尾に大きな黒い翼を生やしているその老人はいるだけで威圧感が辺りを支配する程の存在感があった。紛れもなく彼は魔王であった。全ての魔物の上に君臨する王である。
「へーへーすみませんねぇ。魔王様」
その魔王の前で不貞腐れたようにソファに座っているのはロスであった。魔王の前だと言うのにソファで足を組み、肘をついているロスはクロム達といる時と殆ど変わらなかった。
「なんじゃ!その不貞腐れた態度は!儂は魔王じゃぞ!」
「ワー魔王サマ渋クテカッコイイー。魔王サマバンザーイ」
「思うてもない事を言うでない!棒読み加減が隠しきれておらんわ!」
怒る魔王もなんのその。ロスは溜め息をついてから小声で文句を言い始めた。
「…分かってんなら言わせんなよ。クソジジィ」
「聞こえとるぞ!誰がクソジジィじゃ!儂より"長く在(お)る"癖に!儂をジジィ呼びするでないわ!」
一見はどう見ても魔王である老人の方が年上に見える。しかし魔王の言葉通りのようでロスはそれを否定するどころか次の言葉を吐いていた。
「…じゃあクソガキ」
「貴様と言う奴は…!」
「大体さ〜?その前に俺に雑用押し付けてきたじゃんかよ。大した相手でもなかったし〜?魔王様なら余裕だったろ〜?結局この時間になったんだから今日来ても変わらなくねぇ?」
魔王城に来る前に再度魔王から連絡があり、ロスは魔界と天界を繋ぐ道の“掃除“を頼まれていた。少し前に戻ってきて今に至る。
「バカモン!儂は忙しいんじゃ!側近も使いに出してたんじゃからお主に頼む他なかろうが!」
「えー?あの程度も魔王様の配下は倒せねえのー?ヤバくねえ?」
「配下達も忙しいんじゃ!そんなあちこちにポンポン出しておれんわ!大体!返り血で全身濡らしてニッコニコでここに来た癖して!配下達が腰を抜かしておったわ!」
掃除が終わって魔王城にやってきたロスの姿はそれはもう凄い状況であった。全身は返り血で血塗れになっており、口元も血で汚れていた。その出血量から一方的な殺戮と食事をしてきた事は明らかであった。
「そりゃ〜それなりに“楽しく“やらせてもらったけどさ〜。久々にまともに“狩り”もさせて貰ったとはいえ退屈しないように工夫したんだぜ〜?大した相手じゃなかったから肩慣らしにもならなくてつまんなかったからさ〜。俺に頼むくらいだからもっと強い奴だと思って期待したのに」
「何を言うか!お主クラスの生物がそんな簡単に現れる訳なかろうが!」
「えー?だったら尚の事自分でなんとかしろよ〜」
「話を聞いていたかの…?儂は忙しいんじゃ!」
「こうやって俺と無駄話してるくせに?」
「無駄話じゃないわ!」
しばらくの間、魔王とロスは口喧嘩を繰り広げていた。その時、奥の扉から誰かが入ってきた。
「父上失礼します。…あ!ロスさんもう来てたんですね!」
その声に2人が喧嘩をやめて扉の方を振り向く。
「おぉ!来たか!エルよ!」
「お〜。ジュニア〜。またでっかくなったなぁ」
「お久しぶりです!ロスさん!」
2人の側に来たのは人間で言うと中学生位の少年で魔王の息子のエルであった。父と同じような見た目だが、まだあどけなさが残っている。ロスを慕っているのか尊敬の眼差しでロスを見ていた。それを見た魔王は満足そうに頷いていた。
「うむ。それでは後は任せたぞロスよ。儂はちょいと外出してくるからの」
「えー面倒い。帰りたい。任せられたくねー…。5分で帰ってこいよ」
ソファに寄りかかり上を向いたロス。魔王は溜め息をついた後、大きく息を吸い「この……バカモンがー!!」と大声をあげた。部屋の中の物がビリビリと振動し、エルは両手で耳を押さえ、強く目を瞑っていた。並大抵の生物がそこにいればその声だけで気絶する位の勢いだ。カタカタと室内の物は揺れており、ガラス製品は割れている。それなのにロスはうるさそうに耳を指で押さえているだけだった。
「たわけが!誰のお陰でお主が自由行動出来ていると思っとるんじゃ!」
「うるせぇなー。そんなでかい声出さなくても分かってますよ〜」
「分かっとらんわ!定期的な儂との謁見に、儂の後継者のエルの教育係り及び護衛はお主の役割じゃろうが!」
「それはアンタ等が勝手に決めたんだろ〜。俺は自由にしてたいのにさ〜」
「何を寝ぼけた事を言うておる!"あんな事"しといて!」
魔王のその言葉に空気が固まった。ピリッとした空気の中、低い声で「……しつけぇなぁ…もうしねぇって言ってんだろ」と言ったロスが魔王を睨みつける。
「…………」
「………ッ…」
魔王とロスが睨み合いをしていたのは僅かな時間だったが先程の比ではない程、大気が揺れていた。思わずエルが膝をついてしまう程に圧迫感のある覇気が辺りを包み込み、窓ガラスが音を立てて割れる。外にいた魔獣の悲鳴のような声が響く中、ロスは溜め息をつき目を閉じて指を鳴らした。
「…!ハァッハァ…」
呼吸も出来なかったエルは床に手をつけて呼吸を整えていた。指を鳴らした事によってか窓ガラスも元通りになっていた。そんな雰囲気にしたのにも関わらず、目を開けたロスはすぐにいつもの雰囲気に戻っていた。
「…あーあ。だから嫌なんだよここに来るの。いつもクソガキジジィの小言を聞かなきゃなんねぇし」
「クソガキかジジィかどっちかにせぇ!そのよく分からんところで急にキレる癖、どうにか出来ぬのか!」
魔王の言葉に先程クロムと喧嘩したのを思い出した。それと同時に昔ある人物に「本当お前がキレるタイミングよく分かんないな」と言われた事もフラッシュバックする。
「…出来ませーん。外で我慢してんだからこの位許せよなー」
あの時も同じように返したなーと少し微笑むロスに魔王は呆れ返っていた。
「我慢するのが当たり前じゃろ!そんなにぽんぽんキレられたら溜まったもんじゃないわい!それにエルが怯えておるだろうが!」
「あーそうだった。ごめんな〜居るの忘れてた。でもこれも訓練って事で〜」
「…ハァッ…ハァ……ッ…はい…。俺は大丈夫です」
まだ万全な状態ではなかったが、エルはロスの言葉に素直に返事をし立ち上がった。そんなエルにロスは「おー。流石次期魔王」とわざとらしい拍手を送っていた。
「全くお前は…儂が来いと言うたらすぐに飛んで来んかい!馬鹿者が」
クロムとヤナが戦闘を繰り広げる少し前。王座で座っている老人が呆れたように誰かに説教をしていた。黒い角、紅黒い目、細い尾に大きな黒い翼を生やしているその老人はいるだけで威圧感が辺りを支配する程の存在感があった。紛れもなく彼は魔王であった。全ての魔物の上に君臨する王である。
「へーへーすみませんねぇ。魔王様」
その魔王の前で不貞腐れたようにソファに座っているのはロスであった。魔王の前だと言うのにソファで足を組み、肘をついているロスはクロム達といる時と殆ど変わらなかった。
「なんじゃ!その不貞腐れた態度は!儂は魔王じゃぞ!」
「ワー魔王サマ渋クテカッコイイー。魔王サマバンザーイ」
「思うてもない事を言うでない!棒読み加減が隠しきれておらんわ!」
怒る魔王もなんのその。ロスは溜め息をついてから小声で文句を言い始めた。
「…分かってんなら言わせんなよ。クソジジィ」
「聞こえとるぞ!誰がクソジジィじゃ!儂より"長く在(お)る"癖に!儂をジジィ呼びするでないわ!」
一見はどう見ても魔王である老人の方が年上に見える。しかし魔王の言葉通りのようでロスはそれを否定するどころか次の言葉を吐いていた。
「…じゃあクソガキ」
「貴様と言う奴は…!」
「大体さ〜?その前に俺に雑用押し付けてきたじゃんかよ。大した相手でもなかったし〜?魔王様なら余裕だったろ〜?結局この時間になったんだから今日来ても変わらなくねぇ?」
魔王城に来る前に再度魔王から連絡があり、ロスは魔界と天界を繋ぐ道の“掃除“を頼まれていた。少し前に戻ってきて今に至る。
「バカモン!儂は忙しいんじゃ!側近も使いに出してたんじゃからお主に頼む他なかろうが!」
「えー?あの程度も魔王様の配下は倒せねえのー?ヤバくねえ?」
「配下達も忙しいんじゃ!そんなあちこちにポンポン出しておれんわ!大体!返り血で全身濡らしてニッコニコでここに来た癖して!配下達が腰を抜かしておったわ!」
掃除が終わって魔王城にやってきたロスの姿はそれはもう凄い状況であった。全身は返り血で血塗れになっており、口元も血で汚れていた。その出血量から一方的な殺戮と食事をしてきた事は明らかであった。
「そりゃ〜それなりに“楽しく“やらせてもらったけどさ〜。久々にまともに“狩り”もさせて貰ったとはいえ退屈しないように工夫したんだぜ〜?大した相手じゃなかったから肩慣らしにもならなくてつまんなかったからさ〜。俺に頼むくらいだからもっと強い奴だと思って期待したのに」
「何を言うか!お主クラスの生物がそんな簡単に現れる訳なかろうが!」
「えー?だったら尚の事自分でなんとかしろよ〜」
「話を聞いていたかの…?儂は忙しいんじゃ!」
「こうやって俺と無駄話してるくせに?」
「無駄話じゃないわ!」
しばらくの間、魔王とロスは口喧嘩を繰り広げていた。その時、奥の扉から誰かが入ってきた。
「父上失礼します。…あ!ロスさんもう来てたんですね!」
その声に2人が喧嘩をやめて扉の方を振り向く。
「おぉ!来たか!エルよ!」
「お〜。ジュニア〜。またでっかくなったなぁ」
「お久しぶりです!ロスさん!」
2人の側に来たのは人間で言うと中学生位の少年で魔王の息子のエルであった。父と同じような見た目だが、まだあどけなさが残っている。ロスを慕っているのか尊敬の眼差しでロスを見ていた。それを見た魔王は満足そうに頷いていた。
「うむ。それでは後は任せたぞロスよ。儂はちょいと外出してくるからの」
「えー面倒い。帰りたい。任せられたくねー…。5分で帰ってこいよ」
ソファに寄りかかり上を向いたロス。魔王は溜め息をついた後、大きく息を吸い「この……バカモンがー!!」と大声をあげた。部屋の中の物がビリビリと振動し、エルは両手で耳を押さえ、強く目を瞑っていた。並大抵の生物がそこにいればその声だけで気絶する位の勢いだ。カタカタと室内の物は揺れており、ガラス製品は割れている。それなのにロスはうるさそうに耳を指で押さえているだけだった。
「たわけが!誰のお陰でお主が自由行動出来ていると思っとるんじゃ!」
「うるせぇなー。そんなでかい声出さなくても分かってますよ〜」
「分かっとらんわ!定期的な儂との謁見に、儂の後継者のエルの教育係り及び護衛はお主の役割じゃろうが!」
「それはアンタ等が勝手に決めたんだろ〜。俺は自由にしてたいのにさ〜」
「何を寝ぼけた事を言うておる!"あんな事"しといて!」
魔王のその言葉に空気が固まった。ピリッとした空気の中、低い声で「……しつけぇなぁ…もうしねぇって言ってんだろ」と言ったロスが魔王を睨みつける。
「…………」
「………ッ…」
魔王とロスが睨み合いをしていたのは僅かな時間だったが先程の比ではない程、大気が揺れていた。思わずエルが膝をついてしまう程に圧迫感のある覇気が辺りを包み込み、窓ガラスが音を立てて割れる。外にいた魔獣の悲鳴のような声が響く中、ロスは溜め息をつき目を閉じて指を鳴らした。
「…!ハァッハァ…」
呼吸も出来なかったエルは床に手をつけて呼吸を整えていた。指を鳴らした事によってか窓ガラスも元通りになっていた。そんな雰囲気にしたのにも関わらず、目を開けたロスはすぐにいつもの雰囲気に戻っていた。
「…あーあ。だから嫌なんだよここに来るの。いつもクソガキジジィの小言を聞かなきゃなんねぇし」
「クソガキかジジィかどっちかにせぇ!そのよく分からんところで急にキレる癖、どうにか出来ぬのか!」
魔王の言葉に先程クロムと喧嘩したのを思い出した。それと同時に昔ある人物に「本当お前がキレるタイミングよく分かんないな」と言われた事もフラッシュバックする。
「…出来ませーん。外で我慢してんだからこの位許せよなー」
あの時も同じように返したなーと少し微笑むロスに魔王は呆れ返っていた。
「我慢するのが当たり前じゃろ!そんなにぽんぽんキレられたら溜まったもんじゃないわい!それにエルが怯えておるだろうが!」
「あーそうだった。ごめんな〜居るの忘れてた。でもこれも訓練って事で〜」
「…ハァッ…ハァ……ッ…はい…。俺は大丈夫です」
まだ万全な状態ではなかったが、エルはロスの言葉に素直に返事をし立ち上がった。そんなエルにロスは「おー。流石次期魔王」とわざとらしい拍手を送っていた。