Devil†Story
ヤベッ…!


ガァン!


「チッ…!」


頬と左腕に鋭い痛みを感じたのと同時に剣を横に振って距離を取った。後、一瞬でも動くのが遅かったら眼鏡に言われた通り首を切られてただろう。


「今のでかすっただけ…か」


ナイフについた血を舐めながら眼鏡は残念そうに言呟いた。


ポタッ…


切られた所から血が垂れる。クソ…最初に貰っちまったか…。馬鹿力のせいかすぐ反応出来なかった。滴り落ちる血を乱暴に拭って眼鏡を睨みつけた。


「まあでも?ようやく切り傷をつけられたからいいか。"味見"も出来たしね。悪魔と契約するとその血を体に巡らせてる事もあるからちょっと心配だったんだよねぇ。薄まってるし魔物にはあまり影響ないし、俺等(吸血鬼)はろ過能力があるから絶対大丈夫って聞いてたけど…前科もなかったからさ。でも…杞憂だったみたい。…美味しいねぇ」


ナイフについた俺の血を舐め終わった眼鏡は嬉しそうに笑っていた。悪魔との契約には種類があり、それぞれどの契約をするかによって契約者の能力は変わってくる。その際に悪魔の血液をその身に受ける契約方法があるが、悪魔の血液は力を得られる代わりにそれなりに生き物の体に害をなす副作用があった。…いわば全ての生き物にとって猛毒を体内に入れる事と変わりなかった。それをヤナは警戒していたのだ。


「さてさて。そうと分かればもっと切りつけないとねぇ。フフフ…」


「…テメェも気を付けろよ。何をそんなに余裕あるがしらねぇが…やられっぱなしじゃねぇぞ」


「何を言って―…」


ツゥ…


「!」


ヤナの左耳が血で染まった。どうやらさっきの過程で耳の辺りを軽く切ったらしい。耳から垂れる血に触れて見た瞬間、ヤナは笑い始めた。


「アハハっ!やっぱりやるねぇ!クロム。流石と言っとくよ」


「ハッ…これからだっての」


「いいねいいね!ゾクゾクしてきたよ!もっと切りつけさせて!その血で俺を満たしてよ!」 


「気色悪ぃ事ぬかすな。そんなに俺の血が美味かったのか?ただじゃやんねぇぞ」


「ケチだねぇ。人間によって味があるから気に入った味には滅多に出会えないのに」


気に入った味というフレーズにロスから言われた言葉を思い出した。…こいつら結構グルメなんだっけか。気に入られても、そうじゃなくてもまともな事にはならねぇって言ってたな。俺の場合…気に入られたみたいだが。


「…聞いたぜ。アンタら結構グルメなんだろ」


「そうだよー。俺たちには個体ごとに好みの味が結構分かれるんだよねぇ。人間によって甘いのもあれば苦いのもある…。その人間の容姿も結構関係あるかな。雰囲気って大事じゃん?俺は甘いのが好きなんだよねぇ」


「俺の血は甘いって訳か」


「すごーく甘かったよ〜。少ししか味見してなくてもあれだけ甘いのは滅多にいないからねぇ。これから連れて行く前に少し飲むのが楽しみだよ。…やっぱり女の子の血は違うねぇ」


「まぁ、男でもたまーに甘いのは居るけど、女の子には負けるよ〜」と奴は笑った。俺は意味が分からなかった。…今、最後になんて言いやがった?俺は自分の耳を疑って聞き返した。


「……今なんつった?」


「えっ?まぁ、男でもたまーに甘いのは居るけど―ー「ちげぇ。その少し前だ」


俺は奴の言葉に被せて聞いた。…正直言わなくとも答えは見え始めているが俺の勘違いの可能性も僅かに残っている。重要な事なのでハッキリさせなければならない。


「ちょっと前?あぁ、女の子の血は甘くて美味しいってとこ?そうなんだよ〜。なんでだか分からないけど女の子は甘い事が多いよ。特に可愛い子とか綺麗な子!食べてる物がいいんだろうねぇ。君も容姿もいいから早く飲ませて欲しいなぁ。さっきも言ったけど最近…狩りもなかなかできないからさ」


ビキッ


自身の耳が聞き取った言葉と間違えがなかった事に俺は額に青筋を浮かべた。それに伴いもう何回目になるか分からないこの言葉を大声でいうハメになった。


「誰が女だ!このクソ眼鏡!ふざけんなっ!俺は“男”だっての!!」


「…え?…えー!!!」


俺の言葉に今度は本当に驚いた様に言った。


「う…嘘でしょ?!だってネットで書き込みした時…髪が長い人は中性的でかっこいいお姉さんだったってDMきたよ!?」


恐らくこの間バイトをさせられた時の書き込みだな。俺は一言も言葉を発していないので判断材料である声がなかったから余計そう思われたのだろう。…いや!今日鏡で見たがやっぱそう見えねぇだろうが!!大体このクソ眼鏡は俺と会話してるだろ!


ーほらな?やっぱお前は女顔なんだよー


おまけにロスの野郎が昔言いやがった言葉がフラッシュバックして余計に腹がたった。その勢いのまま戦闘中にも関わらず俺は怒鳴りつけた。


「ネットの情報を鵜呑みにしてんじゃねぇぞ!嘘のわけねぇだろ!何処の世界にこんな声の低い女がいんだよ!一人称も俺っつってんのに!」


「俺っ子のハスキーボイスなのかなぁ〜と」


「ハスキーボイスの域かよ!目ん玉腐ってんじゃねえのか!?」


「いやっ、ちょっ、マジでちょっとタンマ」


「タンマだよ?」と奴は俺に近付いてきてジロジロと俺の顔を見て首を傾げた後に俺の胸に触れてきた。


「あっ…本当だ。胸ないわ」


ーーブチッ


ヒュン!


「うわっ!」


俺は無言で怒りに任せて剣を縦に振った。クソ眼鏡はそれを避けて元居た場所に戻った。


「た…タンマって言ったじゃーん!」



「あっぶな〜」と呑気に言っているクソ眼鏡のその態度に尚更腹がたつ。


「うるせぇよ!汚ねぇ手で触んな!変態が!」


「汚い手とか変態とは失礼な。だってそうしないと分からないじゃんか〜」


「それ以上クソみたいな事言うんじゃねぇよ!マジでぶっ殺してやるから覚悟しろよクソ眼鏡!!」


バァン!


俺は剣を思い切り地面に叩きつけて言った。


「ちょっと間違えただけなのに…そんなに怒らないでよ。短気でおっかないね〜。カルシウム足りてる?」


奴は嘲笑うかの様にまたナイフを取り出した。奴の行動一つ一つが俺の神経を逆撫でし続ける。


「うるせぇって言ってんだよ!クソ眼鏡が!」


剣を抜いた勢いを利用して会話を切り上げるように奴に切り掛かった。


「クソ眼鏡クソ眼鏡って…名前なら言ったはずなんだけどねっ!」


両手から投擲用のナイフをズラリと出した奴はそれを投げつけた後に同じ様に切り掛かってきた。


ガキィン――――


再び激しい攻防戦が繰り広げられた。
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