Devil†Story
「ッ………」


気を失っていたクロムの瞳が開かれた。…何をしてたんだっけか。…あぁ、あの眼鏡と戦ってて……クソ。気絶してたのか…。まだ頭はぼやけており、軽く頭を振った。


あの野郎…思い切り殴りやがって…。首と腹部に鈍い痛みが残っている他、意識がハッキリしてくるとあちこちに痛みを感じた。貧血のせいか頭も体も重たく、何かで腕の自由がきかなかった。


ジャラ……


「ーー!チッ…まあ自由な訳ねぇよな」


金属音がして上を向くと俺は拘束されていた。そこはさっきの倉庫であり、麗弥が磔られて居た壁に同じように拘束されていた。


「やぁ、起きたかい?」


「!」


声がした方向に顔を向けると壁に寄りかかってナイフを回すヤナが手をヒラヒラとさせていた。


「…あの馬鹿と同じところに拘束すんなよ。汚ねぇな」


目眩もねぇしさっきよりは口が回るな…。少しだけ回復してるとこ見ると結構気絶してたのか。
チラリと窓を見ると月の見え方が違っていた。


「随分な言い草だねぇ。助けに来る位ナカヨシなんだろうに」


クスっと笑いながら奴は言った。


「…気色悪い事言うなよ。俺だって叶うなら探しになんか来たくなかったっての」


「その割にはあの子達逃してたじゃない。素直じゃないねぇ」


「それはこっちの都合だ。あいつ等に契約(この事)は言ってねぇし、てめぇの事も人間だと思ってんだからよ」


「なるほどねぇ…信用してないんだ?」


「……本当無駄話が好きなんだな。なんで俺をここに繋いだままにしてんだよ。気絶なんてサービスタイムはもう二度と来ねぇぞ」


吐き出すように目的を問いながら前を向く。


俺の剣はどこだ…?


チラッと辺りを見渡すと、剣はさっきの場所に刺さったままだった。ここから取りに行ったとして…俺の万全な状態で約2-3秒ってとこか。だとすると今の状態だと数秒ズレが生じるな。
頭の中で剣を取る算段をつけながら再び奴の方に目を向けると拘束しているからと油断しているのか俺の方には目も向けずにナイフを回し続けていた。


「君は無駄話が好きじゃないんだねぇ。…言っただろ?君にはまだ用があるってさ」


「…用?俺はアンタを殺す以外ねぇけどな」


「フフッ。つれないねぇ。でも本当助かったよ。不本意ながらでも自ら来てくれて。あの眼帯くん…ネットで調べた君達が居るカフェのロゴをつけてたからさ。糸花を利用して捕まえて聞けば分かると思ったんだけど……意外に口が固くてさー」


「結構痛めつけたのになぁ。味も好みじゃなかったし…。あの帽子の子の方が良かったかな?」と奴は楽しそうにしていた。


やはり麗弥は拷問されていた様だ。それでも口を割らなかったのは流石というべきだろう。


「あのバカが少しでも喋ってやがったら殺してやったのにな。まあ、あいつ痛めつけた所で大した情報なんて出ねぇがな。…で?さっさと本題に入れよ」


嫌味のつもりだったのだろう。しかし俺が気にする素振りを見せない事が面白くなかったのかふと真顔になって壁から背中を離した。


「…余裕だねぇ。捕まってるのにさ。それにしても……。本当そっくりで嫌になるなぁ……」


俺の目の前まで来て顔を覗き込んだ眼鏡は心底嫌そうな表情を浮かべた。


…そっくり?誰にだ?
自分の姿と似ているのはロスと"もう1人"だけだ。そうそういる見た目ではない事を考えると態度や立ち振る舞いの事だろうか。


「…なんの事だよ」


そっくりと言った真意を探ろうと質問したクロムだったがヤナはそれには答えず、また元の表情に戻った。


「…まあそれはどうでもいいや。それより…君の主は何処に居る?」


……ロスの事か。あいつは魔界に居るが…。


「……さぁな。知らねぇよ」


その事を言うのを控え、鼻で笑いながらそう答えた。何が目的かは分からないが言うべきでない事は確かだ。


「あくまでも言わない…か。この状況でよくそんな事言ってられるねぇ?」


いつの間にか出していた2本目のナイフを片手でお手玉のように回す奴は、俺の方には見向きもせずに回し続けていた。


(まだだ……。まだ時間がいる…)


自身の体のコンディションを確認したクロムは時間稼ぎをする事にした。


「知らねぇもんを知らねぇって言って何が悪いんだよ。つーか知ってたとしても……こんな事くらいで言うとでも?」


「ふーん…。随分なめられたもんだねぇ…」


奴を見てみるとさっき切った場所からの出血は止まっていた。…結構深めにやったんだがな。だが切られた直後にも関わらずにあんだけ動けんだから魔物のこいつには大したダメージになってないんだろうな。


「アンタ丈夫なんだな。俺がつけた傷からもう出血が止まってるじゃん」


「このくらいの傷……俺達にとってなんて事ないよ」


「“これくらい”ね…。言ってくれるな」


やはり大したダメージになっていないのだろう。服をはだけさせてわざわざ傷口を見せてきた。まだ完全に塞がってはいないが軽い線の様になっているだけにまでは回復していた。もっと深く切り込まねぇとダメか……いや、切り込むだけじゃ変わらねぇ気がすんな。立て続けに叩き込んでより深く抉らねぇと。


「それを言ったら君もだよねぇ。いくら悪魔と契約してるとはいえ……あんなに毒喰らっといてもう結構話せるなんて恐ろしいなぁ…」


「随分体を酷使してるよーだね」と奴は卑しく笑いながら俺の胸に指を差してきた。


「さぁな。体の事なんか知らねぇよ」


鼻で笑ったクロムのその言葉は偽りの言葉ではなかった。悪魔との契約にはそれなりに代償がある。それは人間にとって負の面の方が大きい事だ。しかしそれを加味してもクロムはロスと契約する必要があった。目的を果たす為に。その過程でどれだけ自分が傷ついても厭わないという強い信念があった。
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