Devil†Story
「へぇ…じゃあ今からどれだけ傷つけられても気にしないんだ?」


特に傷が深い左肩に奴が肩にナイフを押し当ててきた。元々傷があったので鋭い痛みと共に出血し始めた。


「傷も毒も……命を削ってたとしてもどうでも良い。こんなもん元から大事にしてねぇからな」


「“こんなもん”か。自殺志願者と同じ様な事を言うんだねぇ。だったらそんなに頑張らずに教えてくれてもいいんじゃないの?」


グッと更に奥にナイフを突き立てられ、じわっと生暖かい感触が広がってくるが、表情を変えずに話し続けた。


「大事にしてないだけで一応自ら捨てるつもりはねぇからな。こんくらいの傷を負った位で話す義理はねぇよ」


「ふーん……あぁ、人間の子ってアレだもんね。君の年齢的にそういう時期なのかな?大切なものなんてない!的なさ」


ナイフを突き刺す手は緩めずに馬鹿にしたような表情を浮かべる。…こいつ変な想像してんだろ。


「…てめぇが何を想像してんのかは知らねぇが、時期だけでそれなりにでけぇ代償を払わなきゃならねぇ悪魔と契約する訳ねぇだろ。そんなもんは元々ねぇんだよ。俺に必要なのは命を刈り取る事だけだ」


また勘違いされそうな発言かもしれないが、ある意味本当の事なのでそう言い返す。悪魔との契約の条件の中の1つに定期的に命を刈り取るというものがあり、体に刻まれている血印に血を与えなければ大きな代償を払うハメになる。だから必要なものは強いて言えば俺の目的にも繋がる"血"や"他者の命を奪う事"だけが必要なだけで、それ以外は何もない。


「確かに言われてみればそうだよねぇ…。元々素質がないとまともではいられないよねぇ」


ヤナはその冷たい紅い目を見ながら言った。暗く…氷より冷たいと思えるような紅黒い目がそれを語っている。


「………」


クロムはヤナの言葉には答えずに鋭い眼光を向けていた。それを見たヤナは「お〜怖い怖い」とわざとらしく体を震わせた。


「さて無駄話はここまでにしようか。さっきどれだけ傷付けられても平気って聞いたからさ。どのぐらいやれば根を上げるか見てみたくなったんだよねぇ。手始めに……」


楽しそうに笑ったヤナはそう言うと突き刺していたナイフをゆっくり捻り始めた。ブチブチという肉が裂ける不快な音が体内からも聞こえてくる。


「っ……」


流石のクロムも強くなった痛みに眉を潜めた。


「痛みに強いタイプとはいえ…これは結構痛いんじゃない?痛覚遮断はしてないもんねぇ」


「そんな馬鹿な事するかよ。一応ベースは人間なんでな。自分のコンディションが分からなくなるような事はしねぇよ」


契約次第では痛みを感じなくする事は可能だったがクロムはそれをしていなかった。それに対しての代償が大きかったのもあるが、痛みを感じないとどうしても感覚的な刺激がないのでどうしても危機管理能力がなくなってしまうからだった。痛みの感じ方は常人と変わらないのだが、今も尚、ゆっくりと傷口を広げられ続けているのにも関わらず気にする事もなく漏れ出ている血液を見つめていた。


「人間ねぇ…。普通ならもう少し痛がるところだよ?まあ自分の体の事を大切にしてない時点で愚問かな。…それにしても……悪魔と契約すればこんなにも綺麗な赤に染まるんだねぇ」


一度ナイフが抜かれる。抜く時もナイフを回転してきたので傷口が広がり先程よりも激しく出血していた。


「…何の事だ」


ポタッ…ポタッ…


血が地面に垂れ、赤く染めていくと、そこには赤い水溜まりが出来ていた。ぼんやりとそれを見つめる。…早く俺のじゃないのが見てぇな…。ぼんやりとした頭でそう思っていた。


「そんなの決まってるじゃん。目だよ、目。ここまで血の様に紅く染まるのはあいつら……悪魔だけだからね。契約した人間をあんまり見た事がなかったんだけど、人間でもこんなに染まるんだなぁって思って」


「…はっ?」


ぼんやりしていた俺だったが思わず聞き返した。
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