Devil†Story
声がする方向に顔を向けると黒いコートを身にまとっている男が立っていた。フードを被り、口元も服で覆われているので素顔は分からない。しかしその瞳だけは見えていた。その目は…クロムやロスと同じ紅い目をしており、そこには氷のような闇が宿っている。


「黎音(れいん)……様…」


消えそうな声でその男の名前を呼んだ。
最悪だ…。このタイミングでこいつが出てくるなんて…!ヤナは静かに奥歯を噛み締めていた。


「どうしたヤナ。何か問題でもあったのかーー………なんだその怪我は」


黎雨と呼ばれた男はヤナの傷を見て寒気がする程の威圧感を纏わせた。


「…ッ……いえ、そんな大した事ありません」


「……誰がお前の怪我について答えろと言った。そんな事を聞いているのではない。お前が見つけたと言うターゲットはどうした。接触したのなら何故この場に居ない?……何故お前はそんなに怪我をして帰還してる…?」


「そ、それは……ーー「いいから答えろ」


まるで真実以外は受け付けないという雰囲気にその場に居た全員に緊張感が走る。黎音と呼ばれた男からは目に見えるのではないかと言うほど強く冷たい紅黒い覇気が漏れ出していた。下手な事を言えばどうなるかは言われなくても理解出来た。


「ッ………ターゲットらしい少年が居るカフェの店員を捕まえ…その後やってきたターゲットと接触する事に成功しました。しかし彼は悪魔と契約しておりまして………途中までは圧勝していたのですが………」


敗北を認めたくないヤナはそこで言葉が詰まってしまった。


「………「圧勝してたが」……なんだ?………さっさと結末を答えろ」



目を少し見開いて圧を掛けてくる。これまでの言葉やヤナの雰囲気、その怪我から結末は見えている様な物だが、ヤナ自身の口から結末を言うまでは許されなかった。



「………途中から……少年の雰囲気が変わり………負け……ました」



ーービシッ


ヤナの言葉を聞いた黎音は更にその殺気を高め、ビリビリとした殺気が辺りを包み込んだ。それは先日ロスが放った殺気と大差ないほど強力であった。


「…………何だと…?」


「申し訳…ございません……」


「………………」


暫しの沈黙がその場を支配する。たった数十秒の事であったが永遠に感じられる程の威圧感が全身に纏わりついていた。目を細めた黎音は溜め息をついた。


「………純血の吸血鬼だから使えると思ったが…………俺の思い違いだったか?…ヤナよ」


「ッ…………。誠に申し訳ございません……」


自然と右手の拳に力が入る。
俺だって…負けるなんて思ってなかったっての……。人間ごときに……こんなボロカスにやられるなんて……。
強く握った拳は僅かに震えていた。



「………失敗したんだ。……“アレ”は消しても構わないって事だな?」


俺はその言葉に奴を見た。その目は闇より暗く、どんなものより冷たかった。
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