Devil†Story
「おっ…お待ちください!次は必ず…必ず連れて参ります!だから…あいつには……」


俺がそう言うと「僕が行ってあげるよー」という無邪気な声が聞こえた。


「!」


振り返るとキシが鎌を両肩に乗せ、手を掛けて笑っていた。このガキ…余計な事を…!


「キシ…良い。俺が……ッ…」


キシに行かれると困るヤナは抗議したが、傷が痛み思わず傷口を押さえた。その様子を見てキシが「あぁ―。ほらぁ」とヤナの隣に来た。


「ヤナは怪我してるんだから休んでなって。それに僕…あのお兄ちゃんとならもう接触したし♪というわけで黎音様ぁ。遊んで来ていいですかー?」


ヤナの顔を見て不敵に笑った後、キシは片手に鎌を持ち替えて両手を広げて無邪気に笑っていた。


「………」


それを聞いた奴は口を開いた。


「……キシ。勝算はあるのか?」


「もちろんですよ〜。僕、あのお兄ちゃんと子どもが関わってるところを見てたんですけど…。あのお兄ちゃん子どもにはとーっても甘いんですよー。…僕も見た目は子どもなのですーぐ"仲良く"なれると思うんです。油断した所を連れて来ますねぇ。万が一抵抗されたら……半殺しにしても大丈夫ですかー?」


「ンフフ」と唇に人差し指を当てたキシは楽しそうにしている。その笑顔は子どもらしい無邪気さと黒い何かの両面を持っていた。


「……いいだろうキシ。お前に任せよう。……お前まで俺を失望させるなよ」


「…もちろんですよー。僕は黎音様と1番長くいるんですからぁ。…今もこれからも。僕に任せてください」


「……期待しているぞ」


そう言うとキシは「はーい!やったー!あのお兄ちゃんと遊びたかったんだよねー!」と喜んでいた。


でも、俺はそれどころじゃない。それは困る。このまま使えないと思われたら……!


焦る俺とは対照的に再び俺に目線を向けた奴は「ヤナ………お前は後で俺の部屋に来い。処分ならそこで話す」と後ろを向いて歩き出した。処分という言葉とともに脳裏に1人の人物が浮かび上がる。

ーー失ってたまるか…!
その背中に慌てて声を掛けた。


「おっ、お待ちください!黎音様!俺に…俺に行かせてください!お願いいたします!」


「………」


俺が声を掛けるとピタリと奴は止まった。


「ちょっとヤナ。まさか黎音様に逆らう気ぃ?」


ミシェルが声を掛けてくるがそれどころじゃない。必死に奴に懇願する。


「どうか…どうかもう一度チャンスをいただけないでしょうか!次こそは必ずーー」


ーービリビリッ


「!」


俺が話していた途中で奴は先程よりも強い覇気を出して後ろを振り返るとともに右手を前に出した。


ーードクン


「うっ…!?」


左首に激痛を感じて押さえた。


「………聞こえなかったのか?後で俺の部屋に来いと話したよな」


「ウッ…!アッ…グッ…アアァァ…!」


左首に紅黒い光が帯び、十字架の縦棒が雷のような形になっており、その下に紅い雫がついている紋章が現れた。そこを中心に激しい痛みと胸の苦しさ、頭の中を支配されるような感覚が襲ってくる。


「……俺の命令を一度で遂行出来なかった時点でお前に発言する権利なんかない」


光が強く光るたびにその感覚が強くなり思わず膝をついた。心音が激しく脈打ち呼吸をしているのにも関わらず空気が漏れているのではないかと言うくらいの苦しさを感じた。


「……お前が嫌悪している"リミッター"を解除する事も可能なんだぞ。…リミッターが外れたお前の手でアレを消させる事もな」


グッと右手に力を入れるとそれに比例するかのようには輝き出した。


「ウゥ…グッ…アアァァァ…ハァッ…!ッ…!!」


自分の意思とは関係なく普段は隠している牙が伸び、爪も鋭くなっていく。抑えようと必死に抵抗するも叶わず倒れ込むように手を地面に着いた。胸が大きく鳴り響いており、その度に意識が薄れる程、勝手に魔力が解放されていく感覚に不快感を覚えるものの首の紋章が無理矢理ヤナの力を解放してくる。
部屋の中にはヤナの叫び声が響き渡っている。体は痙攣し、ヤナの体からは膨大な量の魔力が漏れ出し、意識が薄れてきた。


「……………」


不意に黎音が手から力を抜くと紋章は消え、体からその不快感が消える。


「ウッ…ハァ…ハアッ…ハッ…グッ……ウゥ…」


しかし体に残るその余韻のせいでヤナは動く事が出来なかった。


「……これ以上俺を失望させるな。…ヤナ。二度は言わぬぞ。……目覚めたら俺の部屋に来い。……分かったな」


スッと手を下ろしそのままヤナの方は見ずに振り返り扉の先に黎音は消えていった。黎音が消えた部屋にはヤナの呻き声だけが聞こえている。


「わ〜……無理矢理の魔力解放…相変わらず容赦ないなぁ」


「本当だねぇ…。えげつないよねぇ、黎音様」


ソルトとミシェルはヤナの姿を見て思わず呟いていた。


「……あーあ。黎音様に逆らうから…。ヤナ大丈夫?」


キシが呆れたように呟いてからしゃがんでヤナの顔を覗き込むが目を見開いて床を見つめ、肩で息をしている。


「ウゥ…ハァ…ハッ…ヒュッ…」


かなり苦しいらしく苦しそうに呼吸をして返事も出来ない状況であった。意識も朦朧としており、無理矢理解放されたヤナの力は戻らず留まっていた。


「あー…これは駄目だ。魔力が暴走して今にも襲いかかって来そう。自然に戻るまで刺激を与えないようにしないとだねぇ。傷からも出血してるし部屋に連れてってあげるよ」


「ウッ…ウゥ……」


「ほら頑張って耐えて。今大きくなるから…ってあっ。しまった。僕まだこの体に慣れてないからおっきくなれないや」


「それならゼノにお願いしたげる★…ゼノ」


「ここにいるぞ」


ミシェルが名前を呼ぶと共に男が暗闇から出てきた。


「ヤナが大変だから部屋まで運んであげてくれるぅ?」


「分かった」


ミシェルの言葉に即答し、ゼノと呼ばれた男は呻くヤナに肩を貸して立たせた。


「ありがとー!ミシェル、ゼノ。もう少し同化出来たらいけたんだけどさー。僕も心配だから一緒行くねー」


「ウッ………ウウウウ…」


呻くヤナに「ほら頑張れ頑張れ!自分に飲まれるな〜」と応援しながらキシとゼノは部屋から出て行った。その空間はミシェルとソルトだけになった。


「…僕たちも気をつけないとね」

ボソッと呟いたソルトの言葉にミシェルも頷いていた。
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