Devil†Story
「そんな……」


そんな風に呟く刹那の言葉に切なくなった。

それじゃあ…愛して貰ってたかすら分からないじゃないか…。

「…仕方がないよ。このカフェはさ…結構歴史があるんだ。父さんも…そうやって育ってきたんだ。それがこの朽木(クチキ)家に生まれてきた者の定めなんだよ」

そう刹那は笑った。投げやりな笑顔ではない。それが、刹那の答えだ。

稀琉はそう感じた。

「そうなんだ…」

「そう。まぁ、俺も…このカフェが大事になってきたから分かるよ」

「大事?」

「そ。大事なものが出来たんだ」

「大事なもの?」

稀琉が、聞き返すと刹那は頷いた。

「そうだよ。とても、大切なものだ」

「何?」

稀琉が、暫く考えた後に聞いたが刹那はただ笑うだけだった。

「あっ、そうそう。さっきの話の続きだけどね。たまーにだったけど、母さんが夜寝る前に本を読んでくれたり、父さんがいつもと違った少し優しい顔で色々な話をしてくれたからね。だから俺は頑張んないとなって最初は思ってたけど」

刹那が、目を瞑りながらそう話した。

刹那の両親が、ただ厳しいだけの人じゃなかったんだと分かった気がした。

「そっか。なら…良いね」

「うん。あっ…なんか変な話になっちゃったね。じゃあもう少し落ち着いたら…ご飯食べに行っておいで。…きっと、麗弥が空腹になりながら首を長くして待ってるよ」

刹那が、笑いながらそう言った。

あっ、そっか…。いつも一緒に食べてるから、待っててくれるかもしれないよね。

「あ…うん。ありがとう、刹那」

「いいえ」

刹那にお礼を言った稀琉は急いで紅茶を飲んで、部屋から出て行った。

誰も居なくなった部屋で刹那は椅子に寄りかかった。

「大事なもの…いつか気付いてくれるかな。…君達だって」

誰も居ない談話室で、刹那が呟いた。

それを聞いたのは、談話室にある物達だけだった。
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