午前0時の誘惑
私が出て行ったことで、会場内がシンと静まり返ってしまった。
嫌な緊張感が私を襲う。
「莉良、こっちだ」
海生の甘い声が耳元を優しくくすぐる。
そして、左手がそっと掴まれた。
導かれるようにして、ステージ中央へと立たされる。
「新社長の婚約者、香西莉良さんです」
どよめきが会場内を走り抜け、その後、パラパラと沸き起こった拍手が、会場全体を包み込んだ。
「海生、どういうこと?」
拍手に紛れて、海生に尋ねる。
「俺のフィアンセは莉良ということだよ」
「そんな……それなら、前もって言ってくれないと困るじゃない」
こんな強引なやり方。
心の準備もできていないのに。
「もう忘れた? 俺はいつだって突然だったろう?」
会いたいと連絡してくるのも、私を連れ去るのも、いつも本当に突然だった。