タレントアビリティ
「ごちそうさまでした」
「はいよ、お粗末様でしたー。はいそえ、お弁当」
「あ、ども」
「あんまり作る体力無かったんだけどね。有り合わせだけど、いいかな?」

 翌日の朝食の風景。能恵の前には朝食が無かった。食べたのは添だけで、能恵はただニコニコしながらそれを見ていた。時々自分の腹部を撫でながら。そして能恵に渡された弁当は、珍しくも箱だった。
 添は昼ご飯を適当に済ませる。菓子パンを屋上でかじるか、昨日の残り物を能恵がパンに挟んだものを屋上でかじるか、そのどちらか。理由は簡単。弁当箱が面倒だから、以上。

「箱、ですね」
「箱だよ? ついついがんばっちった」
「……ありがとう、ございます」
「はいはい、いいのよ」

 だからこんな出来事は珍しい。きっとこの小さな箱には、大きな能恵の思いやりが詰まっているんだろう。思わず朝から目頭が熱くなった。

「涙目?」
「なっ! 泣いてませんって!」
「うれしーなー。これから毎日作っちゃおっかな」
「珍しいから喜んでるんですけど」
「喜んでるんだ?」
「っ!」

 見透かされている。手の平の踊らされている。添は逃げるように立ち上がって、さっさと家を後にしようとして。

「……嬉しい、ですよ。いってきます」
「いってらっしゃい」

 それだけ言い残して、今度こそ家を出た。昼休みの屋上が、ちょっぴり楽しみだ。
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