タレントアビリティ
『10歳の頃の風音ちゃん。好み?』
「んなわけないでしょーが」
『だよね。うん、もし好みだったら私困っちゃう』
「………………」

 年齢考えろと、口が裂けても言えなかったが言いたかった。恐らくこのピアノと必死で向き合う少女のほうが、電話の向こうにいる天才よりも精神年齢が高いのではと、本気で思う。

『えっと、このコンサートは日本最高峰のもの。コンペティションって言うんだけど、風音ちゃんはここで優勝してるのよ』
「……すげ」
『で、こっち』

 スライドが変わると、同じ少女がバイオリンを弾く写真。

『これまた日本最高峰のバイオリンコンペティション。はい、10歳で優勝ね』
「……すっげ」
『それだけじゃなくて、風音ちゃんは、その優勝を一般の部でやってのけた。つまり、大人すら退けての優勝。どう? これが風音ちゃんの才能よ?』

 たった2枚の写真でまじまじと見せ付けられた。彼女はどうしようもなく遠い存在で、自分ではどうしようもないということ。
 溜め息が漏れた。何からの溜め息かだなんて分からないけれど、きっと諦めと、諦めだろう。

「次、お願いします」
『……彼女のお父さん、拍律響。全日本フィルハーモニィの指揮者。当然風音ちゃんの何億倍の才能の持ち主なのよね』

 爽やかなオジサマが指揮棒を振るう写真が映し出される。髪色は黒というよりはむしろグレー。歳なのかもともとなのかは分からない。

『ちなみにこれは、奥さんとの共演の様子。ピアノ引いてるのが奥さんの拍律琴音。風音ちゃんの名前に似てるでしょ?』
「まあ、そりゃあ、ね」

 ふわふわにカールした茶髪でピアノを弾く女性と、指揮棒を振るう男性の写真。コンサートの宣伝に使われているのを、どこかで見たような見なかったような。
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