タレントアビリティ
『そんな生活が、10歳まで続いた』
「まで?」
『うん、まで。あのコンペティションを最後に……、風音ちゃんの生活は急転したのよね』
「両親と……、何かあったんだな」
『察しがいいわね。あのコンペティションを最後に、風音ちゃんはピアノとバイオリンをやめちゃったんだ』
「やめたんだ、音楽」
『当然両親は反対したんだよ? でも、10歳だった風音ちゃんは何とか言ってのけてやりたかったらしくて、物凄い捨て台詞を残して家を出た。それからはずっとね、お手伝いさんと一緒に暮らしているらしいんだけど』

 随分とまた複雑な家族関係だ。
 音楽を教えるだけの両親の下で、まるでただの演奏マシーンのように弾き続けるだけの彼女。学校でわざわざ練習するのも、分かる気がする。

『そのお手伝いさんは音楽分からないから、風音ちゃんの演奏をずっと誉めてた』
「……それで、なのか」
『両親から演奏を誉められる事はほとんどなかった風音ちゃんだから、そのお手伝いさんの前では喜んで音楽をやってたみたい。コンクールのためとか、両親のためとかじゃなくて、そのお手伝いさんを喜ばせたいからこその音楽だったみたいなの。でもね』
「また何か、あったのか」
『風音ちゃんは1回両親の前で演奏するようにお手伝いさんに進められて、散々言われた。下手になってたのよ。分かるでしょ?』

 ずっとハイレベルな教育を受けていたものの、それが突然無くなってしまえば演奏レベルは低下してしまう。当たり前の事でしかない。
 しかしそんな事よりも、誉められ続けていた自分の演奏をぱったりと否定されたときのショック。大きさは何と無く分かる。

「だから、あんなに誉められる事を嫌がって……」
『結論に急がないのー。幼かった風音ちゃんは、さて問題、誰を責め立てたでしょーかっ?』
「そりゃあ、親父さんとお袋さん……」
『ブッブー、ハズレー。正解はー、お手伝いさん』

 ああ。
 これでようやっと全てが繋がった気がする。風音のあの態度の根源は、どうしようもなく子供なものだった。
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