タレントアビリティ
「いらない才能、だもんな」
「そえ、さん……」
「……懐かしいよ、うん。ああ分かったよ風音さん。風音さんが苦しい理由も、その原因も、解決策だって分かった。常日頃から才能のカタマリみたいな人と接しているから、何と無くやり過ごし方って分かっちゃうみたいでさ。まあ俺は、そういうのは才能って呼んではないけど」

 右ポケットから屋上の鍵を取り出して、隣にあった風音のバイオリンケースを手に取ってから下を向いて、ぽかんと立ち尽くす風音の表情を見ずに動いた。

「いらない才能だよね?」

 左手を思い切り振り上げて、掌を開く。曇り空に浮かんだバイオリンケースを一瞥してから、添はさっさと屋上を後にするべく背を向ける。
 背中越しに、ガシャンとフェンスを掴む音が聞こえた。そして響くは木が割れる音。バイオリンの値段を添は詳しくは知らないが、そんなものいらない。

「いや……っ! いやあああああああっ!!」

 屋上のドアを閉める。鍵を掛けて立ち去る。ざわめく教室や廊下を肌で感じながら、添は家路についていった。後はなるようにしかならない。
 才能の消し方を1番知っているのは、他でも無い才能を持たない人なのだ。添は自分で、そう思っている。
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