タレントアビリティ
「あん?」

 添が言いかけた言葉に、万は箸を止めて首をかしげた。和食のフルコースに舌鼓を打ちながらも、万はさりげなく人の話を聞く人間。

「下手すれば、風音の両親を殺しちゃうかもしれない」
「……マジ?」
「私なら楽器じゃなくて、両親を奪うなって、そんなおっかない事言ってた。しかもこっちが楽しそうだからって、ドバイから帰ってくるとか」
「うっわぁ……。ダメだ、やっぱ俺には能恵さんを理解出来ないかもしれないわ。だいたいあの人の才能に不可能が無さ過ぎるからさ……」
「だから無茶苦茶な事をやってのける。新聞記事を賑わす古今東西のド派手な記事の裏には、5つに1つの割合で関わってるって豪語してるしさ」

 生姜焼きを食べながらぼやく。確かにあの人の才能に、不可能なんて無いのだろう。
 そしてその才能は、自分自身にも継承されているとかどうとか。とてもじゃないけれど信じられないから、だから添は未だにそれを拒んでいる。
 純白能恵と同じ才能が、空白添にあるはずが無い。

「なあ、空白」
「ん」
「能恵さんはひょっとしたら、お前に何か期待してるんじゃないのか?」
「……まさか」

 だから万のそんな突拍子もない疑問を、こうやっていともたやすく否定出来る。

「世界を手玉に取るような能恵さんのスケールを要求してるわけじゃないさ。けどさ、お前なりの考えで動く事を、能恵さんは期待してると思うんだよな、俺は」
「もう動いてる。俺が今回やるべき事は、何もしない事なんだよ。能恵さんは帰ってくる。あの人が何をするかだなんて、一般ピープルに分かるはずないさ」
「さあな。でも俺は分かる。能恵さん、何か物凄い事をやらかすつもりじゃねーの?」

 おひたしの小鉢を箸でつつきながら万は言う。
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