タレントアビリティ
「たまには、ね?」
「……甘えたいって事ですか? やっぱり子供ですよ」
「うるさいわねぇ。もう、どこの誰のおかげで風音ちゃんの事がうまくいったと思ってるのかしら、そえは。あー、お水飲みたい」
「申し訳ありません。水は自分でやって下さい」
「けちぃ」

 頬を膨らましながらキッチンで水を飲む能恵。酔ってないとか言ってはいるものの、しかしやはり少しは錯乱するらしい。やや笑い上戸なのが、まあかわいい。
 時刻は午前3時を回った辺り。ちゃぶ台に水の入ったコップを置いて、添の寝る布団の上にもう一度倒れ込んだ。

「あのさ、倒れ込む時はもうちょいゆっくり頼みたいんですけど」
「いいじゃないの。どーせ私は軽いから大丈夫」
「あと、やっぱ倫理的に」
「何か言った?」
「……何事もございません。んで、そういう行為はお断りですから」
「分かってるわよ。けど私だって、疲れてる」

 添の胸元に掛かっている布団に顔をうずめてから、そんな風に能恵は言った。仕事帰りの能恵はいつもこう。へとへとのふらふらを、添はこうして労る。
 頭を撫でてやる。さらさらした手触りはきっと世界のどんな糸よりも上質だろう。能恵は頭を撫でられるのが、何気に好きなのだ。
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