roulette・1
一瞬だけ言葉を失ったけれど、すぐに私は笑みを浮かべた。

「もう、やだぁ~。こんな日に冗談はやめてよ」

彼の腕を取ろうとした私を軽く突っぱね、静かに白い息を吐き出しながら彼は言った。

「美佳と一緒にいるのが苦痛でしかない。別れよう」

私は首を横に振った。

貴方の声は、そんなことを囁くためにあるんじゃなかった。

貴方の目は、そんな風に蔑んだりしなかった。

貴方の腕は、私を突き放したりしなかった。

こんなのは違う。

違う、違う!

「嫌! なんでそんなこと言うの? だって祐樹は私を愛してるって言ってくれたじゃない!」

彼だけなのに。

大した外見でもなくて、何か特技を持っているわけでもなくて、どちらかと言えば内向的で暗い性格の私を『愛して』くれたのは。

だから私は必死で愛を返そうと努力した。

服も流行りのものを着て、ショートが好きな彼のために長い髪をばっさり切って、元は低い声を、喉を枯らすまでに高くした。

そうやって、頑張ってきたのに。

頑張る私を見てきた彼が別れたいと言い出すなんて、何かの間違いだ。

「悪いとこがあるなら直すからさぁ! お願いだからそんなこと言わないで!」

彼の腕にしがみ付いて、我を忘れて喚くように懇願する姿は、周りから見たらさぞ滑稽だったろう。

けれど、私は必死だったのだ。

彼と別れたくなくて。

離れたくなくて。

そんなことになったら、初めて輝きを見出した私の世界は、一瞬にして闇に呑まれてしまう。

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