roulette・1
「別れたくない! お願い、もう一度考え直して? お願いだよぅ……」

どんなにお願いしても、彼の表情は迷惑そうに歪むだけで、もう私を見てはくれなかった。

寒々とした空気が、一層冷たさを増した。

ヒーヒー音を出しながら冷たい空気を吸い込む喉がヒリヒリと痛み、赤くなった指先の感覚が消えていく。頬を伝う涙まで、粒になって凍っていきそうだ。

グズグズと泣き出す私に、彼は重い溜息をついた。

「そういうとこが、嫌なんだよ……」

ぼそりと呟いたその言葉が、寒さに震えていた私の心を突き刺した。

寒さで感覚のなくなった唇を、キリリと噛みしめる。

「じゃあな」

私の拘束がゆるんだことに気付いて、彼は素早く階段を下りていった。

「待って!」

私は咄嗟に追いかけた。そして、彼の背中に体当たりするように飛びつこうとした。だが、それに気付いた彼が素早く振り返り、横に避けながら私を突き飛ばした。

「しつこいんだよ!」

彼の罵りなど耳に入らず、私はただ、彼にしがみ付こうとした。

彼を離したくない。ただその気持ちが私を突き動かす。


ただ、私は彼の……いえ、“愛”が欲しかっただけなのだろう。

私は“愛”に飢えていた。

あの、コバルトブルーの雪の上で、人を殺してしまった、あの日から……。

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