roulette・1
振り払われても振り払われても、彼にしがみ付こうと手を伸ばした。

それしか“愛”を知らない私にとって、彼こそが全て。それを失ったら生きてはゆけない。

「お願い、行かないで!」

どん、と私の体当たりを受けて、彼は足場の悪い階段でよろけた。

グラリとバランスを崩し、あっと思ったときには折り重なるようにして階段下に倒れこんでしまっていた。

擦りむいた手の甲に顔を顰めながら身体を起こすと、彼が私の下敷きになって倒れていることに気付いた。

私は慌てた。

こんなことをして、更に嫌われてしまったら。そう思うと怖くなった。

「ごめんね? わざとじゃないの、ホントだよ!?」

彼の肩に手をかけ、身体を揺すりながら何度もごめんと謝るが、彼からの応答は何もない。

「……祐樹?」

何度か揺り動かして、ようやく彼の様子がおかしいことに気付いた。

「祐樹?」

私の白い息が、彼の顔をふわりと覆い尽くす。しばらくそのまま彼を見つめていると、あることに気付いた。

彼の口から、白い息が吐き出されないことに。

はっと目を見開くと、彼の頭の周りにジワリ、ジワリと赤い染みが広がっていくのが見えた。

「ひっ」

息を呑んで後退るが、すぐに階段にぶつかってしまい、さほど距離は取れなかった。

何故、どうして。そんなことがグルグルと頭の中を駆け巡る。


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