roulette・1
落ち着かなく眼球を動かしていると、階段の縁に僅かな血痕を見つけた。そこから彼の頭部へ視線を移す。

彼は階段から落ちて、縁に頭をぶつけた……。打ち所が悪かった、というヤツだろうか。

「そんな……」

これではまるで、あの日と同じだ。

本格的に降り出した雪が、はらはらと彼の身体に落ちては溶けていくのを眺め、否が応でもあの日のことを思い出した。



私を苦しめる“アイツ”を突き飛ばし、寒さに凍りついた階段から突き落とした。

激しく頭を打ち付けながらも、アイツはしぶとく起き上がってきた。

私は逃げた。

コバルトブルーに輝く雪の上を、必死に走った。

アイツは追いかけてきた。けれど、化け物のような形相で迫ってきたかと思ったら、やがて足を縺れさせ、倒れた。冷たくて固い雪の上に、仰向けになって。

恐る恐る近づいて、アイツの身体に手を伸ばして……。



私は彼の頭に手を触れた。

あの日と同じように恐る恐る彼に近づき、赤い染みを広げていく彼の後頭部に触れた。

ぬるりとした生暖かい感触を掌に感じた瞬間、恐ろしさのあまり悲鳴を上げながら飛び退いた。

本当に、何もかもがあの日と同じ。

ただ、違うのは。

あの日逃れたようには、この罪から逃れることは出来ないだろう、ということだ。



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