アリスズ
☆
顔を、跳ね上げていた。
いきなり、全身に血液が巡り始め、目の前が変な色に点滅し始める。
その点滅のせいで、見たいものがはっきりとよく見えない。
景子は、口を鯉みたいに開けて、酸素を必要とした。
だが。
光だけは、その光だけはちゃんと見えた。
ブーツに隠された光ではなく、この人間自身の持つ光だ。
間違いなく──アディマと同じ者。
「ア…ディマ…」
酸素をうまく取り込めない口で、途切れ途切れの名前を呼ぶ。
「うん…僕だよ…ケーコ」
そこには、青年がいた。
黒髪はすっかり短くなっていたが、褐色の肌と琥珀がかった金の目をした男だ。
一体。
一体、何があったのか。
あの子供ならざる者は、一足飛びに菊の年齢を追い越しているように見えたのだ。
「ど…どして…アディマ」
目の前が、霞む。
声が、歪む。
目頭が熱くなって、もっとちゃんと見たいのに、どんどん彼の顔を不鮮明にしてゆくのだ。
そんな彼女に、アディマは膝を折る。
周囲が少しざわついたが、景子はそれどころではなかった。
「どうして…は、僕の言葉だよ。どうして、黙っていなくなってしまったんだ?」
そう囁かれるが、彼女はただただそれに、首を横に振るしか出来ない。
もはや、言葉など出せる状態ではなかったのだ。
腰は抜けたし、涙は止まらないし。
このまま景子は、床の上で涙の石像になってしまうかと思った。
そんな彼女を、深い瞳でじっと見つめながら、アディマは辛抱強く側にいてくれるのだ。
憐れだったのは、神官たちだったろう。
彼らがそうしている間、神官たちもまたそこに縫い止められ続けていたのだから。
顔を、跳ね上げていた。
いきなり、全身に血液が巡り始め、目の前が変な色に点滅し始める。
その点滅のせいで、見たいものがはっきりとよく見えない。
景子は、口を鯉みたいに開けて、酸素を必要とした。
だが。
光だけは、その光だけはちゃんと見えた。
ブーツに隠された光ではなく、この人間自身の持つ光だ。
間違いなく──アディマと同じ者。
「ア…ディマ…」
酸素をうまく取り込めない口で、途切れ途切れの名前を呼ぶ。
「うん…僕だよ…ケーコ」
そこには、青年がいた。
黒髪はすっかり短くなっていたが、褐色の肌と琥珀がかった金の目をした男だ。
一体。
一体、何があったのか。
あの子供ならざる者は、一足飛びに菊の年齢を追い越しているように見えたのだ。
「ど…どして…アディマ」
目の前が、霞む。
声が、歪む。
目頭が熱くなって、もっとちゃんと見たいのに、どんどん彼の顔を不鮮明にしてゆくのだ。
そんな彼女に、アディマは膝を折る。
周囲が少しざわついたが、景子はそれどころではなかった。
「どうして…は、僕の言葉だよ。どうして、黙っていなくなってしまったんだ?」
そう囁かれるが、彼女はただただそれに、首を横に振るしか出来ない。
もはや、言葉など出せる状態ではなかったのだ。
腰は抜けたし、涙は止まらないし。
このまま景子は、床の上で涙の石像になってしまうかと思った。
そんな彼女を、深い瞳でじっと見つめながら、アディマは辛抱強く側にいてくれるのだ。
憐れだったのは、神官たちだったろう。
彼らがそうしている間、神官たちもまたそこに縫い止められ続けていたのだから。