アリスズ

 アディマに支えられるように、景子は礼拝堂を出てきた。

 膝が笑って、うまく一人では歩けなかったのだ。

 前から誰か来る。

 景子は、一瞬歩けなくなった。

 驚いた顔をしたリサーが、駆け寄ってきたからだ。

 彼は、景子を確認するや口を開こうとした。

「リサードリエック…今はいい。少し、二人にして欲しいのだが」

 しかし、それをアディマは先に止めてしまう。

 リサーは。

 自分の主を、改めて見上げた。

 そう。

 リサーは、彼を見上げなければならなくなっていたのだ。

「わ…分かりました。我々が、朝使った控えの間が空いております…」

 彼は、ごくりと何かを飲み込んだ気がした。

 そして、脇へとよけるのだ。

 前と違い、アディマの言葉には強い力を感じる。

 神殿の途中から折れ、アディマはとある扉の前で足を止める。

 ノッカーも叩かずそこを開けると──中には誰もいなかった。

 これが、リサーの言っていた控えの間とやらか。

 扉を閉めると、アディマは彼女をソファに座らせた。

 そして、自分もその隣に、ゆっくりと腰を下ろしたのである。

 景子はまだ、手に太陽の木の枝を握ったままだった。

 その手に、そっとアディマが自分の両手を重ねてくる。

 大きい、手。

 景子の手が、見えなくなってしまうほど、彼の手は大きくなってしまったのだ。

 何から、どう聞いたらいいのだろう。

 最初から、不思議な人だった。

 小さいのに、子供には見えなかったのだ。

 再会して、改めてみたら──彼は、瞳の年齢に近い姿になっているではないか。

「18の誕生日が来たら…僕たちは旅に出るんだ」

 アディマは、景子に優しい声で語りかけてくる。

「そして、19の誕生日が来るまでに、この神殿に徒歩で到着しなければならない」

 彼の言葉は。

 最初から、不思議で出来ていた。

 アディマの話どおりだというのならば、あの子供の姿で既に18歳だったことになるのだから。
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