アリスズ
☆
日本に帰りたい?
景子は、半ば茫然としていた。
考えたことが、ないと言えば嘘になる。
しかし、そこまで切実に、本気で願ったことはなかったのだ。
よく考えてみれば。
梅や菊からも、帰りたいという言葉を聞いたことがなかった。
親や祖母は、元気にしているだろうか。
祖母ならきっと、『景子は神隠しにあったに違いない』とか言っているだろう。
父母については、不思議な能力の話さえしなければ、問題のない親子関係だった、と言えばいいか。
それらを、全部まとめて要約すると。
「ここでやることがなくなったら…考えてみるかも、くらいですね」
あはは。
日本を愛しているかと聞かれたら、愛していると答えるだろう。
だが、その国の中にいなくとも、景子は日本人だし──何ら問題がないように思えたのだ。
「ここでやることがなくなったら、か…では、何をする気かね?」
ザルシェは、肩をそびやかしながら聞いてくる。
答えが曖昧すぎたのだろうか。
「そうですね…とりあえず…農業を技術にしましょうか」
景子は、空を見上げた。
雲が一気に出てきている。
スコールでも、来るのかもしれない。
「農業を…技術に?」
聞きなれない言葉の組み合わせにか、イデアメリトスの長は首をひねった。
「国中の農家の慣習や、農業の言い伝えをまとめて、それを試験し、本当に効果のあるものだけをまとめて本にする。出来た本を、農村に配る…技術の一歩になりませんか?」
前々から考えていたことを、景子は言葉にしてみた。
いわゆる、ノウハウ本の作成だ。
彼女の、外部の知識も役立つことはあるだろうが、まずはこの国が昔から持っている知識の集積が大事だと、そう思ったのである。
「ふむ…面白いことを考えるな」
ザルシェは、小さく唸った。
だが、それを行うには、景子には問題があることに今日気づいたのだ。
「えと…まずは、読み書きをおぼえないと…いけないんですが」
あはは、と彼女が笑うと。
「そこからか!」
イデアメリトスの長に、ツッコミを入れてもらえる日がくるとは、思ってもいなかった。
日本に帰りたい?
景子は、半ば茫然としていた。
考えたことが、ないと言えば嘘になる。
しかし、そこまで切実に、本気で願ったことはなかったのだ。
よく考えてみれば。
梅や菊からも、帰りたいという言葉を聞いたことがなかった。
親や祖母は、元気にしているだろうか。
祖母ならきっと、『景子は神隠しにあったに違いない』とか言っているだろう。
父母については、不思議な能力の話さえしなければ、問題のない親子関係だった、と言えばいいか。
それらを、全部まとめて要約すると。
「ここでやることがなくなったら…考えてみるかも、くらいですね」
あはは。
日本を愛しているかと聞かれたら、愛していると答えるだろう。
だが、その国の中にいなくとも、景子は日本人だし──何ら問題がないように思えたのだ。
「ここでやることがなくなったら、か…では、何をする気かね?」
ザルシェは、肩をそびやかしながら聞いてくる。
答えが曖昧すぎたのだろうか。
「そうですね…とりあえず…農業を技術にしましょうか」
景子は、空を見上げた。
雲が一気に出てきている。
スコールでも、来るのかもしれない。
「農業を…技術に?」
聞きなれない言葉の組み合わせにか、イデアメリトスの長は首をひねった。
「国中の農家の慣習や、農業の言い伝えをまとめて、それを試験し、本当に効果のあるものだけをまとめて本にする。出来た本を、農村に配る…技術の一歩になりませんか?」
前々から考えていたことを、景子は言葉にしてみた。
いわゆる、ノウハウ本の作成だ。
彼女の、外部の知識も役立つことはあるだろうが、まずはこの国が昔から持っている知識の集積が大事だと、そう思ったのである。
「ふむ…面白いことを考えるな」
ザルシェは、小さく唸った。
だが、それを行うには、景子には問題があることに今日気づいたのだ。
「えと…まずは、読み書きをおぼえないと…いけないんですが」
あはは、と彼女が笑うと。
「そこからか!」
イデアメリトスの長に、ツッコミを入れてもらえる日がくるとは、思ってもいなかった。