アリスズ
☆
「ケーコ、今日も学校かい? ほら、お前も行かなくちゃ」
女中頭のネラッサンダンは、息子の背中を押した。
学校で会った男の子が、彼女の子であるのを知ったのは、三日ほどたってからだった。
屋敷にいる間は、彼は部屋にこもっていることが多く、顔を合わせたことがなかったのだ。
使用人エリアからは、子供は絶対に出さない。
それが、彼女の働く条件だという。
ネラは、なけなしの給金で息子を学校にやっている。
下っ端でもいいから、役人にしたいと願っているのだ。
「行こうか、シェロー」
呼びかけると、初等科のちびっこはムッとした顔をした。
「シェローハッシェって呼べよ」
勝手に短くすんな。
「はいはい、シェローハッシェ。学校に行こうか」
そして、景子は学校に行く間、この小さな子と一緒に歌を歌うのだ。
シャンデルに習った、言葉を覚える歌。
空中に指で、覚えた文字を描きながら。
それに、もう一つ歌をつけくわえる。
九九の歌。
こちらの数字の音に直し、九九の暗唱用にと景子が作ったのだ。
足し算と引き算を、子供は学校でマスターするのだが、掛け算や割り算になると、初等科では難しすぎるという扱いになっている。
シェローと、一の段から歌を歌いながら歩き、景子は彼に九九を仕込もうとしたのだ。
役人になるならば、きっと役に立つはずだと。
既に彼は、二の段までマスターしていた。
作った歌を教師に聞かせたが、彼は奇異の目で景子を見るだけだった。
残念。
そんな景子であったが、猛勉強の甲斐あってか、初等科の国語は何とか及第点をいただけるようになった。
今度は、中等科に放り込まれる。
10歳くらいの、子供たちの集まるところだ。
シェローと教室は離れてしまったが、一緒に通うことは続けながら、景子はついに、彼にとっての難関、七の段をマスターさせたのである。
七の段って、鬼門よね。
うう、よかった。
景子は、まるで自分のことのように喜んだのだった。
「ケーコ、今日も学校かい? ほら、お前も行かなくちゃ」
女中頭のネラッサンダンは、息子の背中を押した。
学校で会った男の子が、彼女の子であるのを知ったのは、三日ほどたってからだった。
屋敷にいる間は、彼は部屋にこもっていることが多く、顔を合わせたことがなかったのだ。
使用人エリアからは、子供は絶対に出さない。
それが、彼女の働く条件だという。
ネラは、なけなしの給金で息子を学校にやっている。
下っ端でもいいから、役人にしたいと願っているのだ。
「行こうか、シェロー」
呼びかけると、初等科のちびっこはムッとした顔をした。
「シェローハッシェって呼べよ」
勝手に短くすんな。
「はいはい、シェローハッシェ。学校に行こうか」
そして、景子は学校に行く間、この小さな子と一緒に歌を歌うのだ。
シャンデルに習った、言葉を覚える歌。
空中に指で、覚えた文字を描きながら。
それに、もう一つ歌をつけくわえる。
九九の歌。
こちらの数字の音に直し、九九の暗唱用にと景子が作ったのだ。
足し算と引き算を、子供は学校でマスターするのだが、掛け算や割り算になると、初等科では難しすぎるという扱いになっている。
シェローと、一の段から歌を歌いながら歩き、景子は彼に九九を仕込もうとしたのだ。
役人になるならば、きっと役に立つはずだと。
既に彼は、二の段までマスターしていた。
作った歌を教師に聞かせたが、彼は奇異の目で景子を見るだけだった。
残念。
そんな景子であったが、猛勉強の甲斐あってか、初等科の国語は何とか及第点をいただけるようになった。
今度は、中等科に放り込まれる。
10歳くらいの、子供たちの集まるところだ。
シェローと教室は離れてしまったが、一緒に通うことは続けながら、景子はついに、彼にとっての難関、七の段をマスターさせたのである。
七の段って、鬼門よね。
うう、よかった。
景子は、まるで自分のことのように喜んだのだった。