アリスズ

 七の段をクリアしたシェローにとって、八と九の段は、単なる歌に過ぎなかったようだ。

 あっさりと、覚えてしまったのである。

「ケーコ、俺、計算早いってほめられた!」

 19日の休みの日、部屋を襲撃しに来たシェローが、嬉しそうに飛びついてきた。

「よかったねー。すごいねー」

 それを、ニコニコしながら抱きとめる。

 景子は、高等科に送られることになっていた。

 シェローと、途中までしか一緒に通えなくなる。

 校舎が別なのだ。

 15歳くらいの子たちが集まるところで、なおかつ、町の子の中でも裕福な層しか行けなくなる。

 問題はここからだと、職場のネイディに言われていた。

 ネイディも、この学校出身だったのである。

 高等科からは貴族の下の方と、裕福な商人の子などが、同じ校舎で勉強するのだ。

 教室には、一人兵士が立っているという状態で。

 何故、兵士が立っていなければならないか。

 上の貴族にいじめられる立場の貴族の子息にとって、町の子は格好のいじめの対象だからだ。

 その騒ぎは、とても教師だけで収められるものではなく、ついに兵士を置くようにしたというのである。

 そこまでして、何故貴族と町民を一緒にするのか。

 だが、それはイデアメリトスの長が、決めたことだという。

 おそらく、競い合わせることにより、どちらも勉学に励ませよう──そう思ったのだろう。

 さすがに、勉強が専門的になってきた。

 難しい言葉や、国の仕組みで右往左往することはあったが、算数で困ることはなかった。

 中学程度の数学でも、ここでは十分高等なものだったからだ。

「何で、大人がこんなとこ、通ってんだよ」

 ただし。

 貴族のおぼっちゃん方の目からは、逃れられなかったが。

「お仕事です」

 農林府の役人の証でもある、緑と黄色のスカーフを、景子は持ち歩いていた。

 学校が終わったら、出勤しなければならないからだ。

 そのスカーフの威力や絶大で。

 将来、役人になろうと考えている子供たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていったのだった。
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