アリスズ
☆
「学校は、どうだい?」
ネイディは、出勤してきた景子に声をかける。
「スカーフのおかげで助かったわ」
腕章のように、二の腕で結んだそれを見せる。
「ああそうか…役人の機嫌を損ねると、役人になるのに不利になるって思うからな」
愉快そうに、彼は笑った。
この国は、れっきとした階級社会なので、職業の選択が家柄によって限られる。
一般人がなれるのは、よくて下級役人まで。
下級貴族が、中堅役人まで。
要するに、景子がなれるのは、下級役人まで、ということだ。
女性で、役人の試験を受ける人間は、ほとんどいないのが実情なのだが。
もうすぐ、学校も卒業だろうな。
景子は、書類を見ながらそう思った。
ゆっくりだが、大分理解できるようになったのだ。
本も、あまり専門的なものでなければ、何となかる。
読めるようになって分かったことは、農業の専門書というのは、皆無に等しい、ということだった。
そう遠くなく、景子は農村への聞き取り調査にでも、出ようかと思っていた。
彼女の考えたことを、実行に移す時が近づいてきたのだ。
幸い職場では、景子は放っておくこと、が決定しているようで。
『外畑行ってきまーす』、などで、許されている。
それもこれも。
初日の、ザルシェ訪問が効いたのだろう。
あの時、景子はネイディと内畑にいた。
振り返るとネイディはいなかったのだが、彼はザルシェの側近に席を外させられていたというのだ。
イデアメリトスの長が、わざわざ景子を訪ねてきた。
その威力は、リサーの父の名よりもビカビカに輝いてしまったのである。
だが。
本人は、いたって冴えない女で。
毎日顔を合わせている内に、ネイディだけはようやく普通に接してくれるようになった。
おそれおののいているのが、馬鹿らしくなったのだろう。
そして、景子は相変わらず冴えないまま。
「内畑に行ってきまーす」と、出て行くのだった。
「学校は、どうだい?」
ネイディは、出勤してきた景子に声をかける。
「スカーフのおかげで助かったわ」
腕章のように、二の腕で結んだそれを見せる。
「ああそうか…役人の機嫌を損ねると、役人になるのに不利になるって思うからな」
愉快そうに、彼は笑った。
この国は、れっきとした階級社会なので、職業の選択が家柄によって限られる。
一般人がなれるのは、よくて下級役人まで。
下級貴族が、中堅役人まで。
要するに、景子がなれるのは、下級役人まで、ということだ。
女性で、役人の試験を受ける人間は、ほとんどいないのが実情なのだが。
もうすぐ、学校も卒業だろうな。
景子は、書類を見ながらそう思った。
ゆっくりだが、大分理解できるようになったのだ。
本も、あまり専門的なものでなければ、何となかる。
読めるようになって分かったことは、農業の専門書というのは、皆無に等しい、ということだった。
そう遠くなく、景子は農村への聞き取り調査にでも、出ようかと思っていた。
彼女の考えたことを、実行に移す時が近づいてきたのだ。
幸い職場では、景子は放っておくこと、が決定しているようで。
『外畑行ってきまーす』、などで、許されている。
それもこれも。
初日の、ザルシェ訪問が効いたのだろう。
あの時、景子はネイディと内畑にいた。
振り返るとネイディはいなかったのだが、彼はザルシェの側近に席を外させられていたというのだ。
イデアメリトスの長が、わざわざ景子を訪ねてきた。
その威力は、リサーの父の名よりもビカビカに輝いてしまったのである。
だが。
本人は、いたって冴えない女で。
毎日顔を合わせている内に、ネイディだけはようやく普通に接してくれるようになった。
おそれおののいているのが、馬鹿らしくなったのだろう。
そして、景子は相変わらず冴えないまま。
「内畑に行ってきまーす」と、出て行くのだった。