アリスズ

 梅の着物を脱がせてたたんで、ゆっくりと寝かしつけて。

 次は、菊の返り血の固まった袴を、着替えさせなければならなかった。

 しかし、彼女の腰にはまだ刀が差してある。

 おそるおそる。

 景子が、それに触れると。

 一瞬にして、菊の目が開いた。

 その手は、しっかりと刀を押さえている。

 それに、景子はびくっとした。

 さっきまで、眠りの大底にいたように見えたのに。

「あ、えっと…着替えないと」

 景子は、慌てて言い訳めいたことを口にした。

 言い訳でも何でもないのだが、悪いことをした気になったのだ。

「くっ…」

 菊は。

 横たわったまま微かに呻いて、刀を鞘ごと腰から引き抜いた。

 そして、自分の頭の上に置く。

 直後。

 すぅっ。

 再び、彼女は大底まで戻ってしまったのだ。

 あ、脱ぐのは協力してくれないんだ。

 あははと、景子は苦笑した。

 我が道をゆくお嬢さんだわ、と思いながら。

 とりあえず着物と袴、それに足袋もへっぱがし、半裸の状態で毛布にくるんでおく。

 着替えがないのだから、しょうがない。

 次は、と。

 景子は血で汚れた着物を見た。

 これを、洗わなくちゃ。

 血の汚れは水洗い、っと。

 それを抱えて、景子は部屋を出た。

 梅が目を覚ますのは、このもう少し後の出来事。

 景子が、言葉の通じない苦労の末に洗濯を終え、着物を干して戻ってきた時のこと。

 お昼前くらい。

 やっと、やらなければならない仕事が終わって。

 うー…目がしぱしぱ…す…る。

 景子は、空き部屋の隅っこで、うつらうつらし始めた。
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