アリスズ
□
 口づけは、二度目だった。

 一度目のことを、おそらくケイコは知らないだろう。

 その時の彼女は、ベッドで身体をむしばんだ毒の後遺症と闘っていたのだから。

 痛々しいほど小さく見えるその身体が、とても愛しかった。

 出来うる限りの痛みをやわらげながら、その愛しさにアディマは引き寄せられてしまったのだ。

 可愛らしいケイコ。

 握っていた両の手を離し、その身体を抱きしめる。

 小さく震える彼女は、自分の手のやり場も失ったまま、ただアディマに抱かれていた。

「ケイコ…」

 その髪に、唇を寄せる。

 花にも似た香油の香りが、彼の鼻をくすぐった。

「…アディマ」

 胸の中で、彼女が消え入りそうな声で、名を呼んでくれる。

「アディマ…大好きよ」

 愛しい唇、愛しい声、愛しい吐息が、彼への愛を紡ぎあげた。

 それだけで、アディマの胸は震え、身体さえも震わすのだ。

 ああ。

 ケイコと出会ったのは、夜。

 彼女は、太陽に連れられて、この国にやってきた者ではない。

 だが、いまだけは。

 アディマは、太陽でなくてもいいと思った。

 ケイコをここに連れてきたものが、たとえそれが月であったとしても、感謝したかったのだ。

 その身体を何度も抱きしめ、何度も口づけ、お互いの名前を呼び合い、また口づける。

 吐息が混じり合い、乱れ始め、彼女の膝が震え、立っていられなくなるまで。

 崩れそうになるケイコを抱きとめる。

 まだ、口づけも抱擁も、これっぽっちも足りていなかったのだ。

 アディマは、乾いた砂地のように彼女を求めていた。

 触れれば触れるほど、自分がケイコに触れたかったのだと思い知らされる。

 若い自分の身体が、自分のものではないかのように、彼を駆り立ててゆく。

「ケイコ…ケイコ…」

 崩れそうになる身体を抱きとめたまま、もう一度彼女に口づける。

 それでもやはり──全然足りないままだった。
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