アリスズ
☆
「アディマ…」

 景子は、彼に抱かれていた。

 明るいから恥ずかしいとか、そんな感覚はもう、熱にうかされて溶け落ちている。

 素肌を触れあわせ、指を絡め取られ、唇の感覚がなくなるほどにキスをした。

 アディマは、長い間彼女を離さなかった。

 思いを遂げても遂げても、彼は景子を慈しんだ。

 だが。

 日が暮れる。

 太陽は隠れ、部屋をどんどん闇に染めて行く。

 夜は。

 この国にとって、夜は不吉なのだ。

 契りを交わしたら、最初の日は闇に支配される前に、自室に戻ることになっている。

 そうロジューに聞いた。

「アディマ…帰らなきゃ」

 鈍く疼く身体の奥と、生々しい敷布の冷たさに景子は身をよじる。

「ああ…」

 なのに、彼は答えながらも彼女の額に口づけた。

「アディマ…」

 手を取られる。

 アディマはその指先にさえ、唇を押しあてるのだ。

 景子の全てを、その唇で覚えておきたいかのように。

「ケイコ…愛しているよ」

 その唇が。

 おそらく、初めて。

 愛の言葉を、囁いた。

 これまでずっと、名前を呼ぶ声や、瞳や行動で、彼は愛を伝えてくれていたのだ。

 だからこそ。

 この、初めての言葉は、景子の胸に深くしみ込んだのだ。

 二つに離れた身体は、とても寂しく感じられ、身支度を整えようとする指が、うまく動かない。

 元々、彼女は病み上がりだったのだ。

 体力の落ちた身体で、アディマと契りを交わしたのである。

 よろよろでも、全然おかしくなかった。

 帰ら、なきゃ。

 西翼までの、長い廊下が待っていることに気が遠くなりながらも、景子は彼の部屋を出ようとした。
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