アリスズ
☆
「ちょっと顔は怖いが、うち一番の腕利きだ。ケーコが都に行く時は、護衛として連れていけ」
周囲には、旦那と同伴に見える──ロジューは、軽やかに笑った。
景子が、身重でも働くことを見越して、彼女なりにきちんと人選をしてくれたのだろう。
「ありがとうございます…スレイ…ええと」
スレイピッドスダートと言おうとしたのに、記憶と唇がうまく合致しなかった。
「呼び方は、何でもいい」
ため息をつくのが、彼のクセなのだろうか。
それとも、ロジューと一緒にいると、そうならざるを得ないのだろうか。
だが、彼は不思議な男だった。
イデアメリトスの女性に対して、まったく敬う仕草も見せず、「様」さえもつけないのだから。
「普通は、夜しか出歩かない男だが…呼びつければ、一応昼間でも動く」
好きに使っていいぞ。
「ロジューストラエヌル…」
いい加減にしろ。
言外にその音を響かせながら、彼女の名を呼ぶ。
「昨夜、そう、約束しだろう?」
金褐色の瞳は、一切ひるむことがない。
言葉は、念を押すように一音ずつ強く刻まれるのだ。
昨夜。
その言葉に、はっと景子はスレイを見た。
まさか、と。
その視線に気づいたロジューが、ニヤリと口の端を上げる。
ええええーーー!
驚きのあまり、彼女は不躾なほど一生懸命、スレイという男の顔を見てしまった。
素早そうな体つきの男だった。
ダイのような巨体ではなく、骨に筋肉だけつくと、こんな風になるんだろうかというような、独特の反りと流線。
景子より年上には間違いないというのに、黒豹のようなしなやかさをその身に維持し続けている。
「立場上は、私の従者…だ。言う事を聞かすには、いろいろ面倒なのだがな」
まるで。
野生動物を飼育しているかのように、ロジューは彼を見る。
「あ、あの…おめでとうございます」
右目に見返された景子は、慌てふためいて、ついそんなことを言ってしまった。
「……めでたい?」
怪訝に繰り返す彼に、ロジューはニヤニヤしているだけだった。
「ちょっと顔は怖いが、うち一番の腕利きだ。ケーコが都に行く時は、護衛として連れていけ」
周囲には、旦那と同伴に見える──ロジューは、軽やかに笑った。
景子が、身重でも働くことを見越して、彼女なりにきちんと人選をしてくれたのだろう。
「ありがとうございます…スレイ…ええと」
スレイピッドスダートと言おうとしたのに、記憶と唇がうまく合致しなかった。
「呼び方は、何でもいい」
ため息をつくのが、彼のクセなのだろうか。
それとも、ロジューと一緒にいると、そうならざるを得ないのだろうか。
だが、彼は不思議な男だった。
イデアメリトスの女性に対して、まったく敬う仕草も見せず、「様」さえもつけないのだから。
「普通は、夜しか出歩かない男だが…呼びつければ、一応昼間でも動く」
好きに使っていいぞ。
「ロジューストラエヌル…」
いい加減にしろ。
言外にその音を響かせながら、彼女の名を呼ぶ。
「昨夜、そう、約束しだろう?」
金褐色の瞳は、一切ひるむことがない。
言葉は、念を押すように一音ずつ強く刻まれるのだ。
昨夜。
その言葉に、はっと景子はスレイを見た。
まさか、と。
その視線に気づいたロジューが、ニヤリと口の端を上げる。
ええええーーー!
驚きのあまり、彼女は不躾なほど一生懸命、スレイという男の顔を見てしまった。
素早そうな体つきの男だった。
ダイのような巨体ではなく、骨に筋肉だけつくと、こんな風になるんだろうかというような、独特の反りと流線。
景子より年上には間違いないというのに、黒豹のようなしなやかさをその身に維持し続けている。
「立場上は、私の従者…だ。言う事を聞かすには、いろいろ面倒なのだがな」
まるで。
野生動物を飼育しているかのように、ロジューは彼を見る。
「あ、あの…おめでとうございます」
右目に見返された景子は、慌てふためいて、ついそんなことを言ってしまった。
「……めでたい?」
怪訝に繰り返す彼に、ロジューはニヤニヤしているだけだった。