アリスズ

 みっともないけど。

 景子は、観念した。

 はいずって、ここから出るしかないようだ。

 根っこにひっかけた足と、したたかにうちつけた膝と、身体に変な力をかけてしまったために、腰をやってしまったのだ。

 両手と、わりと平気な方の片足で、自分の身体をずりずりと動かしていると。

「何をしている…」

 フードを下ろした男が、そこにいた。

 スレイだ。

「あ…いえ…あの…」

 妊婦なのに、けつまずいて転んだ挙句、動けなくなりました──そんなこと、正直に答えられるわけがない。

 馬は、ぶるるといななきながら、まだそこにいた。

「蹴られたのか?」

 馬を見た後、表情を険しくしながら、スレイが問いかける。

「ちがっ…蹴られてません! ただちょっと…そのへんで…その…」

 景子は、どんどん小さくなっていった。

「あ、あの…馬を出してもらっていいですか?」

 このまま見られていると、恥ずかしくてはいずれなくて、景子はケールリの方へ、彼を向かわせようとする。

「俺には、お前を出した方がいいように思えるがな」

 景子への言葉にも、ため息を混ぜてくれた。

「わ、私は自分で出られますんで…」

 それに、ますます小さくなる。

 スレイは、むっつりと不機嫌な表情に拍車をかけ、本当に嫌そうにはーっと息を吐き捨てた。

「いいか。手間をかけさせる時は、最小限の最短時間にしろ」

 その息が終わる前に、景子は抱え上げられていた。

「………!」

 驚くよりも先に、痛めたところに激痛が走って、顔をこわばらせる。

「助けて下さいと一言言えば、済む話だろう」

 ざくざくと、スレイはジャングルの中を慣れた足取りで歩いてゆく。

 うう。

 迫力がありすぎて、気軽にそんなことを頼めない。

 自業自得のバカなことをしたのだから、なおのこと。

 だが、もしこれを見ていたのがアディマだったら、もう植物のところへ行かせてもらえなくなったかもしれない。

 もっと気をつけなきゃ。

「すみません…」

 抱えられながら、景子はしょんぼりぼりと反省するしかなかった。
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