アリスズ
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「自分の身体に、良くない魔法を使っていただろう…子袋が小さくなり弱って、子供が苦しがっている」

 トーの言葉の瞬間。

 叔母君の瞳が、大きく揺れた。

 眉が釣り上がりかけ、その口は大きく開きかける。

 しかし、その唇から怒鳴り声は出てこなかった。

「叔母上…」

「いい、気にするな。話を進めろ」

 イデアメリトスの君の言葉を、叔母君は拒否する。

 彼女は、妊娠していたのか。

 ダイには、残念ながら分からなかった。

 イデアメリトスが隠していることを、ダイが知る由などないのだから。

 ケイコの妊娠は、知っていた。

 この御方から、直々に話をされたからだ。

 父親が、誰であるかも。

 イデアメリトス以外で、このことを知るのは、リサーとダイだけ。

 もし、永遠に隠さねばならないことであるとするなら、ダイは墓までこの秘密を抱えて行くだろう。

 では、叔母君の子の父は誰なのか──そんなことは、彼が考えることではなかった。

 すぐに思考を止め、いまこの目に見える景色を把握する。

 現状では、イデアメリトスの2人は、出鼻をくじかれた形となった。

 そして。

「トーの歌に興味があるんでしょう? それなら、ちょうどいい」

 話は、キクの手に握られたのだ。

「余興に、歌でも聞いてもらいましょうか」

 ああ。

 ダイは、剣にいつでも手をかけられるように構えながらも、この場で自分がこれを抜くことはないだろうと確信した。

 キクは、逃げも隠れもしない。

 伝えることがあるとするならば、まっすぐに伝えようとする。

 どんな噂よりも、一度の真実を目の当たりにさせる気なのだ。

 夕刻に聞いた歌が、トーの唇からあふれ出る。

 イデアメリトスの君は、それを止めようとはしなかった。

 身と心に染みいる歌を、この御方も真正面で受けとめようとしている。

 左手に、既に髪が一本巻いてあるのを、ダイは知っていた。

 拳になったままのそれは、警戒を解くことはない。

 しかし。

 叔母君は──安らかな寝息を立て始めたのだった。
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