アリスズ
□
「いつか、私を殺す者が来る」
トーの言葉に、淀みはない。
アディマが、自分を消すつもりで来たことは、最初から知っているかのように。
「私が歌うと、世が荒れる。だが、私がここに生きている以上、荒れることが自然なのだ。だから私は…荒らしに来た。この昼の世を」
詩は続く。
彼は、黙ってトーの詩を聞いていた。
「私は、ただ死ぬまで歌うのみ」
死ぬまで。
そうか。
トーにとっては、どういう『死』であれ、死という名の自然の産物なのだ。
それがたとえ、人の手によってもたらされるものであれ。
言いかえれば。
彼は、誰かに殺されて死ぬその時まで、歌う事に決めたのだろう。
見事な、命の詩だった。
殺すには惜しいほどの。
アディマは、考えていた。
この男を見てから、思考を大樹の枝のように高く広く伸ばしていた。
キクと引き離しさえすれば、殺すのはたやすいだろう。
おそらく、あっけないほど簡単に殺すことが出来る。
彼自身、既に死を受け入れているからだ。
だが、逆にまな板の上に乗って寝転がられると、包丁を気軽に降り下ろせなくなる。
それを、父は甘さだと言うだろう。
しかし、同時に父もここで考えたはずだ。
敵対する意思もなく、敵対勢力にいる様子もない。
こちら側に引き入れれば、殺す以外の使い方がある。
いっそ。
イデアメリトスの、神官にする手もあった。
どれだけ民が彼に心酔しようとも、結果的にその後ろにあるイデアメリトスを崇拝することなるのだ。
だが、それを決定できる権限は、いまのアディマにはない。
権限を持っているのは。
「イデアメリトスの太陽に…会う気はあるか?」
アディマは、目を閉じた。
この答えが、トーの命の分かれ目。
「それが、自然の流れならば」
是でもなく、非でもなく。
彼は、ただ──命の真ん中を流れて行った。
「いつか、私を殺す者が来る」
トーの言葉に、淀みはない。
アディマが、自分を消すつもりで来たことは、最初から知っているかのように。
「私が歌うと、世が荒れる。だが、私がここに生きている以上、荒れることが自然なのだ。だから私は…荒らしに来た。この昼の世を」
詩は続く。
彼は、黙ってトーの詩を聞いていた。
「私は、ただ死ぬまで歌うのみ」
死ぬまで。
そうか。
トーにとっては、どういう『死』であれ、死という名の自然の産物なのだ。
それがたとえ、人の手によってもたらされるものであれ。
言いかえれば。
彼は、誰かに殺されて死ぬその時まで、歌う事に決めたのだろう。
見事な、命の詩だった。
殺すには惜しいほどの。
アディマは、考えていた。
この男を見てから、思考を大樹の枝のように高く広く伸ばしていた。
キクと引き離しさえすれば、殺すのはたやすいだろう。
おそらく、あっけないほど簡単に殺すことが出来る。
彼自身、既に死を受け入れているからだ。
だが、逆にまな板の上に乗って寝転がられると、包丁を気軽に降り下ろせなくなる。
それを、父は甘さだと言うだろう。
しかし、同時に父もここで考えたはずだ。
敵対する意思もなく、敵対勢力にいる様子もない。
こちら側に引き入れれば、殺す以外の使い方がある。
いっそ。
イデアメリトスの、神官にする手もあった。
どれだけ民が彼に心酔しようとも、結果的にその後ろにあるイデアメリトスを崇拝することなるのだ。
だが、それを決定できる権限は、いまのアディマにはない。
権限を持っているのは。
「イデアメリトスの太陽に…会う気はあるか?」
アディマは、目を閉じた。
この答えが、トーの命の分かれ目。
「それが、自然の流れならば」
是でもなく、非でもなく。
彼は、ただ──命の真ん中を流れて行った。