アリスズ

「いつか、私を殺す者が来る」

 トーの言葉に、淀みはない。

 アディマが、自分を消すつもりで来たことは、最初から知っているかのように。

「私が歌うと、世が荒れる。だが、私がここに生きている以上、荒れることが自然なのだ。だから私は…荒らしに来た。この昼の世を」

 詩は続く。

 彼は、黙ってトーの詩を聞いていた。

「私は、ただ死ぬまで歌うのみ」

 死ぬまで。

 そうか。

 トーにとっては、どういう『死』であれ、死という名の自然の産物なのだ。

 それがたとえ、人の手によってもたらされるものであれ。

 言いかえれば。

 彼は、誰かに殺されて死ぬその時まで、歌う事に決めたのだろう。

 見事な、命の詩だった。

 殺すには惜しいほどの。

 アディマは、考えていた。

 この男を見てから、思考を大樹の枝のように高く広く伸ばしていた。

 キクと引き離しさえすれば、殺すのはたやすいだろう。

 おそらく、あっけないほど簡単に殺すことが出来る。

 彼自身、既に死を受け入れているからだ。

 だが、逆にまな板の上に乗って寝転がられると、包丁を気軽に降り下ろせなくなる。

 それを、父は甘さだと言うだろう。

 しかし、同時に父もここで考えたはずだ。

 敵対する意思もなく、敵対勢力にいる様子もない。

 こちら側に引き入れれば、殺す以外の使い方がある。

 いっそ。

 イデアメリトスの、神官にする手もあった。

 どれだけ民が彼に心酔しようとも、結果的にその後ろにあるイデアメリトスを崇拝することなるのだ。

 だが、それを決定できる権限は、いまのアディマにはない。

 権限を持っているのは。

「イデアメリトスの太陽に…会う気はあるか?」

 アディマは、目を閉じた。

 この答えが、トーの命の分かれ目。

「それが、自然の流れならば」

 是でもなく、非でもなく。

 彼は、ただ──命の真ん中を流れて行った。
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