アリスズ
☆
「菊さん!」
景子は、驚いた。
朝、屋敷のエントランスに降りてきたら、ばったり彼女に再会したのだ。
「久しぶりだね、景子さん」
再会を、彼女は穏やかな笑顔で受け入れてくれる。
その笑顔に、景子は大きな大きな安堵のため息をついたのだ。
ああ、よかった。
彼女は無事で、そしてここにいる。
ここにいるということは、アディマの許可を得たということだ。
少なくとも、景子が恐れていた刃傷沙汰は起きなかったということになる。
昨夜。
彼女が、ぐーすか寝ている間に、話し合いがあったのだろうか。
あえて、景子はそこから外されたのだ。
それくらい、鈍い彼女にだって分かる。
最悪の事態を見越して、景子は外された。
だが。
最悪の事態は起きなかった。
それを、いまはただ喜ぼう。
彼女は、そう前向きに考えることにしたのである。
「少し、ふっくらしたかな? 景子さんは」
幸せそうで何よりだよ。
菊の言葉に、どきっとする。
自分では、前と変わらない貧相な身体だと思うのだが、彼女からは太ったように見えるのだろうか。
「ああ、そうだ…景子さんに紹介したい人がいてね」
菊の視線が、何かを捕えた。
少し離れたところで動くものを追う瞳に、景子もつられて振り返る。
「おはよう、トー。ちょっといいかな…景子さん、彼はトー。歌う人だよ」
白い髪の男性だった。
白いたてがみ、と言った方がいいのかもしれない。
彼の視線が、一度景子に向けられ、そして微かに微笑んだ。
「健やかで良い子たちだ」
初めましてより先に──優しい爆弾が放り投げられた。
「良い子…?」
菊が不思議そうに言葉を繰り返し、景子を見た。
「…たち?」
景子は、そこだけ繰り返し。
自分のおなかを見た。
「菊さん!」
景子は、驚いた。
朝、屋敷のエントランスに降りてきたら、ばったり彼女に再会したのだ。
「久しぶりだね、景子さん」
再会を、彼女は穏やかな笑顔で受け入れてくれる。
その笑顔に、景子は大きな大きな安堵のため息をついたのだ。
ああ、よかった。
彼女は無事で、そしてここにいる。
ここにいるということは、アディマの許可を得たということだ。
少なくとも、景子が恐れていた刃傷沙汰は起きなかったということになる。
昨夜。
彼女が、ぐーすか寝ている間に、話し合いがあったのだろうか。
あえて、景子はそこから外されたのだ。
それくらい、鈍い彼女にだって分かる。
最悪の事態を見越して、景子は外された。
だが。
最悪の事態は起きなかった。
それを、いまはただ喜ぼう。
彼女は、そう前向きに考えることにしたのである。
「少し、ふっくらしたかな? 景子さんは」
幸せそうで何よりだよ。
菊の言葉に、どきっとする。
自分では、前と変わらない貧相な身体だと思うのだが、彼女からは太ったように見えるのだろうか。
「ああ、そうだ…景子さんに紹介したい人がいてね」
菊の視線が、何かを捕えた。
少し離れたところで動くものを追う瞳に、景子もつられて振り返る。
「おはよう、トー。ちょっといいかな…景子さん、彼はトー。歌う人だよ」
白い髪の男性だった。
白いたてがみ、と言った方がいいのかもしれない。
彼の視線が、一度景子に向けられ、そして微かに微笑んだ。
「健やかで良い子たちだ」
初めましてより先に──優しい爆弾が放り投げられた。
「良い子…?」
菊が不思議そうに言葉を繰り返し、景子を見た。
「…たち?」
景子は、そこだけ繰り返し。
自分のおなかを見た。