アリスズ

「そうか…子供か」

 菊の目が、本当に嬉しそうに細められた。

 ああああ。

 景子は、照れると同時に、恐れも感じていたのだ。

 彼女は、このおなかにいる子がアディマとの子だと、一瞬も疑うことはないだろう。

 だからこそ、だ。

「き、菊さぁん…」

 景子は、人差し指を自分の唇の前で立て、すがる目で彼女を見上げるのだ。

 シーッ、でお願いします、と。

「やれやれ…甲斐性がないな、御曹司は」

 ため息をつきながら、菊は笑みを苦笑へと移す。

「トー…二人かい?」

 彼女は、振り返りながら指を二本立てた。

 白い獅子は、小さく頷く。

「そうか…双子か。産まれたら、一人は私に祝福させてよ…もう一人は、きっと梅が祝福してくれる」

 菊は、いとおしい目で景子のおなかを見る。

 ああ。

 何と、心強いのか。

 彼女の子を、菊は無条件で愛そうとしてくれる。

 この子の行く末を、景子はまだ具体的には考えられなかった。

 しかし、それは不安があるということの裏返しでもあったのだ。

 この子たちに、もしものことがあれば──もしくは、景子の身に何かあった時。

 ゴッド・マザーたちが、きっとこの子を守ってくれる。

「菊さん…ありがとう」

 会えてよかった。

 無条件で、子供を託すことが出来る相手が、この世に二人もいるのだ。

 そんな感動中の景子を、トーという男はじっと見ていた。

 一瞬、視線が合う。

「その子たちは…夜を嫌わぬだろう」

 どうしてだろう。

 トーの予言めいたその言葉が、微かに震えた気がした。

 あえて感情の名前をつけるなら。

 喜び、というものだろうか。
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