アリスズ
☆
見送りに、女主人と梅が出てくる。
ひんやりとした早朝の空気が、景子の顔に触れた。
女主人は深々と腰をかがめ、梅も美しく頭を下げる。
「───」
アディマが、女主人をねぎらうような言葉をかけていた。
景子はただ、梅を見ていた。
頭を上げた彼女と、目が合う。
にこりと微笑む梅に、迷いなんかない。
そんなのは、最初から分かっている。
彼女は、しっかりした女性だ。
景子よりはるかに年下ではあるが、自分のことも、そして自分がすべきこともちゃんと知っている。
その上で。
別れなければならないのだ。
覚悟が決まっていないのは、景子の方だった。
微笑んだ梅が、唇を開く。
「さようなら」
美しい、とても美しい言葉。
同じ言葉が、日本にずっとあることは知っていたけれども、これほど美しい言葉として聞いたのは、これが初めてだった。
短大で習った。
さようなら──左様ならば、という言葉がちぢまったもの。
別れには、ちゃんと理由がある。
左様であるというのならば、お別れいたしましょう。
そしてまた、ご縁がありましたら、お会いいたしましょう。
決して、永遠の離別の言葉ではない。
「さようなら…またきっと…」
歩き出すアディマたちに遅れながらも、景子は振り返ってそう応えた。
菊に至っては、片手をひょいと上げるだけ。
また来るよ。
そんな簡単な離別だ。
そして、小走りでアディマたちに近づく。
泣きそうな自分を、ぐっと我慢していたら。
「サヨウナラ…」
アディマが、小さくその言葉を呟いた。
彼の心にも、残ってしまう音だったのだろうか。
見送りに、女主人と梅が出てくる。
ひんやりとした早朝の空気が、景子の顔に触れた。
女主人は深々と腰をかがめ、梅も美しく頭を下げる。
「───」
アディマが、女主人をねぎらうような言葉をかけていた。
景子はただ、梅を見ていた。
頭を上げた彼女と、目が合う。
にこりと微笑む梅に、迷いなんかない。
そんなのは、最初から分かっている。
彼女は、しっかりした女性だ。
景子よりはるかに年下ではあるが、自分のことも、そして自分がすべきこともちゃんと知っている。
その上で。
別れなければならないのだ。
覚悟が決まっていないのは、景子の方だった。
微笑んだ梅が、唇を開く。
「さようなら」
美しい、とても美しい言葉。
同じ言葉が、日本にずっとあることは知っていたけれども、これほど美しい言葉として聞いたのは、これが初めてだった。
短大で習った。
さようなら──左様ならば、という言葉がちぢまったもの。
別れには、ちゃんと理由がある。
左様であるというのならば、お別れいたしましょう。
そしてまた、ご縁がありましたら、お会いいたしましょう。
決して、永遠の離別の言葉ではない。
「さようなら…またきっと…」
歩き出すアディマたちに遅れながらも、景子は振り返ってそう応えた。
菊に至っては、片手をひょいと上げるだけ。
また来るよ。
そんな簡単な離別だ。
そして、小走りでアディマたちに近づく。
泣きそうな自分を、ぐっと我慢していたら。
「サヨウナラ…」
アディマが、小さくその言葉を呟いた。
彼の心にも、残ってしまう音だったのだろうか。