アリスズ

 入門生は7人となった。

 兵士の肩書を持つ男が5人、子供が1人、女が1人。

 立ち上げとしては、こんなものだろう。

 と、油断していたら。

「入門しても…いいか?」

 ダイがやってくるではないか。

 この国の、近衛隊長様だ。

「だめだ」

 即決だった。

 修練中の非番の兵士たちが、戦々恐々と入口の二人を見ている。

 自分たちの隊長までも入門しようと考えていることに、驚き戸惑いまくっていた。

「お前はもう、人に何かを習う人間じゃない」

 逆に言えば。

 菊がダイに教えることなど、何もないのだ。

 技のことだけを取れば、いくらでもまだ余地があるのは分かっている。

 だが。

 彼ならば、実践で戦っていけば、勝手に覚えてゆく基礎は身についていて。

 そして、精神の修練などに至っては、菊が教えることなどないと思っていた。

 ダイは、自分が強いことは知っているが、強すぎないこともまた知っている。

 何よりも、それが重要なことだ。

 だから、自分の肩書などを気にせずに、こうして腕を磨こうとしているのである。

「ただし…相手をしにきてくれるのは、いつでも歓迎だ」

 菊も、まだ上を目指さなければならない。

 それには、強い相手が必要だった。

 ダイやトー、それとロジューの子飼いの隠密。

 そこまで思った時。

「そういえば…トーはどこへ行ったんだ?」

 いつの間にか、都から姿を消していた。

「それを、俺に聞くのか…」

 ダイが、ぽりぽりと額をかく。

「イデアメリトス認可の楽士だろ?」

 知らないはずはないよな、というニュアンスで聞くと、彼は苦笑を浮かべる。

「しばらくは隣領にいたようだが…いまは、西に向かったようだ」

「そうか…足はまだついてるか」

 あながち冗談ではないことを口にしながら、菊は笑った。

 また、どこかへ歌いに行ったのだろう──自分の命を賭けて。
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